水の話
 
暮らしの中の水草

古くから世界中で利用されてきたヨシ
 昔懐かしい日本の農村風景の一つに、茅葺き屋根があります。ところが、茅というのはススキ、スゲ(カヤツリ草科)、チガヤ(イネ科)、ヨシといった植物の総称でしかありません。昔は身近に手に入る材料を使い、屋根材としていたのです。

琵琶湖周辺の町や村では、いまも茅葺きの家を見つけることができますが、これらのほとんどがヨシで葺かれています。琵琶湖は昔から良質でたくさんのヨシが採れたのです。ヨシといえば茅葺き屋根か葦簾を連想します。しかし、ヨシには非常に多くの用途がありました。それも日本だけではなく、世界中の人々の暮らしに古くから深く係わってきたのです。

いまから5,000年以上も前、メソポタニアでは粘土板に絵文字が描かれていますが、そのときに使われたのがヨシの茎で作られた筆でした。画家のゴッホも葦ペンを使った絵を何枚も残しています。日本では毛筆を入れる鞘として利用されていました。古代エジプトでは、パピルス葦(カヤツリ草科)を束ねた舟が作られ、南米のチチカカ湖では、いまも葦舟をあやつるインディオの姿がみられます。さらに楽器としても使われています。この他にも燃料としたり、製紙原料など、幅広い用途が知られています。

近年は、ヨシが水質浄化に高い効果を発揮することからヨシの保護活動も盛んです。欧米でも、ヨシの水質浄化の研究は盛んです。しかし、生育したヨシを刈り取らなければ、せっかく吸収した有機物は、枯れたヨシから再び水の中へと戻ってしまいます。大切なことはヨシの利用を広め、成長したヨシが刈り取られるようにすることです。
衝立 ヨシ戸
衝立
ヨシもイ草も古くから日本の住まいと深い係わりを持ってきました。ヨシで作られた衝立やヨシ戸は歳月が経つほど美しさを増してきます。イ草も畳表以外の用途として、美しく染め上げて衝立にするなど、新しい試みが行われています。

レターセット ヨシから作られたレターセット。成長したヨシを刈り取ることによって、水中の有機物は水の外へ運び出されることになります。ヨシを使った新しい製品作りの研究も盛んです。 リード オーケストラでおなじみのオーボエやクラリネットのリードにはいまもヨシが使われています。左からファゴット、オーボエ、クラリネット各々のリード。また、インカの楽器、ケーナやサンポーニャは別名をヨシ笛と呼んでいます。ただし、日本ではヨシと呼んでいても、古代エジプトの葦舟や南米インディオの笛はヨシとは異なる竹に近い植物です。束になっているものがサンポーニャ、1本のものがケーナ。
芦根 ヨシの根から作られた、芦根と呼ばれる漢方薬。ヨシの地下茎や若い芽は救荒食物とされ、花、茎、根、葉などは漢方薬として昔から利用されています。

水質浄化にも大きな役割
 ヨシは別名アシとも呼ばれています。本来の名はアシですが、悪しに通じるということでヨシ(善し)が一般的となったのです。ヨシはイネ科の植物です。普通のヨシ以外にも日本ではツルヨシ、セイタカヨシがありますが、いろいろな用途に利用されるのはヨシと呼ばれる種類です。

琵琶湖のほとりにある近江八幡市。ここの一角を占める「西の湖」に生えるヨシ原から、ヨシキリのさえずりが聞こえてきます。ここのヨシは、いまも葦簾や葦戸などに加工され、関西方面へ高級品として出荷されます。いいヨシを育てるには、手入れが必要です。12月から3月ころまでがヨシ刈りのシーズンです。刈り取りの後は切り株に火を付けてヨシ地焼きをします。害虫を駆除し、灰はそのまま肥料になるのです。4月になると、早くも地下茎から新しい芽が伸びて8月には3m近くまで成長します。

成長が早いということは、大量の養分を吸収します。このことは、ヨシが窒素やリンなどの有機物を除去し水質浄化に役立つ大きな理由にもなっています。しかもヨシの茎は中空です。そのため、土壌へ空気を送り込み、好気性微生物が活動する好条件を作り出します。このメカニズムこそ、水質浄化の一番の理由とされています。

ヨシ 近江八幡市の「西の湖」に広がるヨシ。水質浄化に役立つということで、琵琶湖では、ヨシの保護に力を入れています。また、将来、人間が宇宙で永住する場合、汚水を浄化してリサイクルさせなければなりません。そこで、アメリカ航空宇宙局(NASA)でも最近はヨシの水質浄化作用に注目しています。


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