水の話
 
水草の宝庫だった日本

水位の変動にも対応する不思議な能力
 日本では何百年も前に作られた古い干拓地から、数十年前に作られた新しい干拓地までがあり、こうした地域のため池や水路などに生える水草の種類を比較すると面白いことが分かります。どちらも水草の種類が十数種とそれほどの違いはなくても、古い干拓地にはミズオオバコなどの沈水植物の割合が高く、新しい干拓地にはウキクサなどの浮遊植物の占める割合が高くなっています。水路や池が作られると、最初に水鳥の足などに付着してウキクサのような水草が侵入し、水面に浮かんで急速に繁殖して、水面を占有します。根が水底に固定する植物は、浮遊植物の繁殖に妨げられたり、種が流されるため、最初のうちはなかなか繁殖できません。それでも徐々に生育場所を広げていき、古い干拓地ほど沈水植物の割合が高くなると考えられます。
フサジュンサイとヒシ
フサジュンサイとヒシ
(写真提供:浜島繁隆氏)

ジュンサイ
新芽が高級食材として知られているジュンサイ
 ところが、ため池は田畑に水を供給することを目的に作られた池です。水位は季節によって変動します。さらに何年かに一度は、堤防の維持管理や底に溜まった泥をさらえるために、水を抜くことさえあります。水がなくなれば、水草もなくなるように思われます。しかし、長年にわたり、水草は子孫を維持してきました。水がなくなっても再び芽を出せるのは、水のない時期にも耐えられる地下茎や種子をもった水草があるからです。ときとして、種子は何年もの間、芽を出すチャンスを待ち続けることがあります。池の改修工事をした後で、ノタヌキモが岸辺一面に繁殖したということもあります。工事によって、土の中の種子が長い眠りから覚め、一斉に発芽したためと考えられています。

 しかし、水草にはもっと大きな特徴を持つものがあります。水位の変動によって、全体が水没したり、空気中にさらされたりしたとき、葉の形が全く別の種類の水草であるかのように変化するのです。

水中にある葉は「沈水葉」といい、一般に糸状になったり、水分の蒸散を防ぐ必要がないため薄くなったり柔らかくなっています。水面上に浮いている葉は「浮葉」といい、幅の広いのが一つの特徴で、葉の付け根の部分がふくれていたり、細胞間隙が発達して水に浮きやすくできています。

沈水植物の場合は水位上昇による影響をあまり受けることはありませんが、浮葉植物は水位が上昇すると浮葉が水中に没してしまいます。ところが、雨が降って水位が上昇した池に出かけてみると、ガガブタの浮葉は水没していませんでした。きれいに水面に葉を浮かべています。ガガブタは成長したあとでも、葉が水没すると葉柄を1時間に0.5cm、つまり一晩で6cmという速度で伸ばし、水面に葉を浮かせるからです。
ヒシ
実が食べられるヒシ
(写真提供:浜島繁隆氏)

ガガブタとフサジュンサイ 在来種のガガブタと一緒に帰化種のフサジュンサイ(ハゴロモモ)が見られます。帰化種の繁茂によって、在来種が生育場所を追われることがあります。(写真提供:浜島繁隆氏)

生育の仕方による水草の分類「水草の科学」より

水草の分類
水草の分類
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