水の話
 
水草の宝庫だった日本
まだまだ自然が多いといわれる郊外に残された池。小さな流れが注いでいます。一部はコンクリートの護岸で補強されていますが、その対岸にはヨシが繁っています。水の中には、小さな魚の影も見られます。所どころに水草が流れに揺れています。かつては、ほとんどの池や川で見ることができた水草ですが、最近はあまり見られなくなっています。たまに見つけても、帰化水草という場合もよくあります。いまや、日本に昔からあった多くの水草が数を減らしています。

水の中に生えるから水草
 水の中でゆらゆらと揺れる海藻のような姿が、一般に描かれる水草のイメージのようです。ところが、実は稲も水草の一種だと聞くと、水草に対するイメージはかなり変ってくるかもしれません。では、水草とはどういった植物のことでしょうか。

ごく簡単にいえば、水草とは水の中で芽生え、一生の多くの期間を水の中で過ごす植物のことを指しています。植物を大きく分類するとコケ類、シダ植物、裸子植物、被子植物となります。このうちのコケ類を除いた植物をまとめて維管束植物と呼び、一般にはその中で、生育環境が水の中にある植物を水草と呼んでいます。

水の中に生えるとはいっても、生え方はいろいろです。根が水底に固定しているものと、固定していないものとがあり、さらに根が水底に固定しているものにも、植物のからだ全体が水の中につかっているもの、葉を水面に浮かべているもの、植物体を水面から突き出しているものがあります。根が水底に固定していないものにも水面に浮かんでいるものと、水中を浮遊しているものがあります。

一口に水草といっても生育する環境は様々です。当然、生活の様式も違っていますが、シダ植物や被子植物といった同じ仲間であっても、水草であったり水草でないものがあるというのはなぜでしょう。
水路
かつて郊外へ出かければ、どこででも見られた水路。こうした場所には様々な水草が生育していました。(写真提供:浜島繁隆氏)

ヘラオモダカ
ヘラオモダカ
水草の花はスイレン科以外に赤系統の色を持つものはなく、白、黄、青色系で占められています。開花時間は種によって様々で、ヘラオモダカのように午後3時ごろから開花し始めるものもあります。
 すべての生命は海の中で誕生し、やがて陸上へと進出しました。水草はこうした進化の途中で水の中に留まったものではなく、一度、陸上での生活を経験した後、再び水中での生活を始めた植物です。ミズニラという水草は、石炭紀に何十メートルもの高さの大森林を形成していたリンボクやロボクという木の子孫なのです。

水中生活といっても、その環境は様々です。流れのある川、流れのない池、水位が変動する水域、同じ水域でも水深の深い場所、浅い場所などいろいろです。ヤナギモやイトモのような川の中の水草は、流れに身を任せられるよう、柔らかい体に細い糸状の葉を持つものが多く見られます。池などで見られるヒツジグサ、ガガブタは水面に葉を浮かせるように、円形の浮葉をつけます。ハスは無酸素状態の泥の中でも生育できるように、大きな穴のあいた地下茎(レンコン)を持っています。

水草は淡水に生育するものばかりとは限りません。海にも水草は生えています。これは海草といって、アサクサノリやワカメなどの海藻とは区別されています。海草は維管束植物ですが、海藻はコケ類よりも下等な藻類です。海草としてはアマモ、コアマモ、ウミヒルモなど、海藻に比べ、種類はずっと少なくなっています。

一方、水草にもタヌキモ、サンショウモ、カナダモなど「モ」という言葉のつくものがたくさんありますが、これらは藻ではなく、れっきとした維管束植物です。

水田農業と深いつながりを持った植物たち
 水草は、あくまでも生育環境が水の中にある植物です。そこで、普段は水の中で生育していても、何らかの理由で、一定期間、水のなくなった環境下でも生育できる植物があったとしたら、はたして水草といえるのでしょうか。逆に、一定期間、水没していても生育できる植物があれば、それは水草とは呼べないのかということも考えられます。そのため、水草の種類が何種類になるのかという定説はなく、捉え方にもよりますが日本では200種類から400種類になるとされています。水草を400種類だとする場合は、湿原や水田雑草も含めた数字となりますが、これは世界的に見て、かなりたくさんの種類があるということです。
ため池
雑木林の中で見つけたため池。いまでは水草の貴重な生育場所となっています。
 日本に水草が多いのは、年間平均降水量が約1,700mmと水に恵まれているからだと考えられます。しかし実は、米作りも水草と大きく係わってきたのです。かつては水を確保するために多くのため池が作られました。そして水田も田植えから数か月間は水を湛えています。ため池と水田の間には水路も掘られました。こうした水環境が様々な種類の水草を育んだのです。しかし、除草剤の使用や水路の改修などで、日本の水草の4分の1は絶滅寸前になっています。


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