水の話
 
自然が作り出した浄化装置
猪苗代湖の周辺では多くの観光地で見られるような大きくて派手な看板が見当たりません。電線も地下に埋設されています。背の高い建造物を極力避け屋根も切妻にして遠くの景色が見やすいように工夫されています。美しい猪苗代湖の景観を守るためです。そして湖自身の美しさを未来へと受け継ぐため様々な取り組みが行われています。

神秘の湖に忍び寄る危機
地図 裏磐梯の湖沼群はいずれも神秘的な色をたたえ、この地を訪れる多くの人々の心を魅了します。ところが昭和60年前後から一部の湖で富栄養化の進行が見られるようになり、平成元年には小野川湖、秋元湖で淡水赤潮が発生しました。
淡水赤潮というのは池や湖などの淡水域で植物プランクトンが異常発生することによる着色現象の一つで、ほかにも緑色となるアオコや水の華と呼ばれる現象があります。色が異なるのは発生する植物プランクトンの種類の違いです。淡水赤潮は海で発生する赤潮に似ているところから付けられた名前です。淡水赤潮は山間部の湖やダム湖でしばしば見られる現象で、主に昭和40年代の中頃から全国で発生しています。全国的に見れば裏磐梯湖沼群の富栄養化はかなり遅れて現れたとはいえ、日本で最も美しい湖沼群での淡水赤潮の発生に地元は大きな危機感を抱きました。
さらに、猪苗代湖でも黒色のタール状の固まりが湖岸に打ち上げられるようになりました。平成7年頃からは猪苗代湖のpHが上昇しはじめました。つまり酸性であった水が徐々に中性へと向かいはじめたのです。
水はもともと中性です。中性の方がより多くの種類の魚などが生育できることになります。でも、それがなぜいけないのかというと、猪苗代湖の場合は中性化することによって水の汚れが進行するからです。

曽原湖
曽原湖
秋元湖
秋元湖
桧原湖
桧原湖
小野川湖
小野川湖


巨大な沈殿池としての機能
 酸性の猪苗代湖の水はpHの値が低いというだけで、他の不純物はほとんど含まれておりません。だからこそ会津若松市や郡山市のなどの生活用水としても使うことができるのです。また、水が酸性になっているのは湖へ流入する長瀬川の影響です。他の河川が流入する湖岸のpHは中性に近くなっています。このことが20種もの魚類が生息できる理由の一つになっているのです。そして猪苗代湖には単に酸性という理由以外の浄化機能が働いているのではないかと考えられてきました。
平成16年の夏、福島県環境センターが猪苗代湖の湖底の様子を初めて水中カメラで撮影しました。そこで意外な事実がわかりました。水中では水深が深くなればなるほど太陽の光が届かなくなるため、撮影のときにはライトが必要です。ところが猪苗代湖では水深50mまでライトを使わずに撮影ができたのです。透明度が高いため、太陽の光が届いていたのです。そしてもっと意外なこともわかりました。
猪苗代湖の平均水深は51.5m、最大水深は93.5mです。湖底へカメラを降ろした時、3cmほど堆積している茶褐色の微粒子のフロックが見つかりました。この堆積物はわずかの衝撃で煙のように舞い上がるほど非常に軽いものでした。そして長瀬川の河口方面へと向かうに従い、堆積物は厚くなり、フロックも大きくなっていました。
水を浄化する方法の一つに汚れの原因となっている微細な浮遊物質を凝集沈殿させる方法があります。この時によく使われるのが硫酸アルミニウムです。汚れた水の中に硫酸アルミニウムを入れると、汚濁物質が吸着されてフロックが形づくられ沈殿していきます。
長瀬川は途中で流入する酸川によって強い酸性となっています。しかも鉄やアルミニウムが溶け込んでいます。その水が猪苗代湖へ流入して中和される過程で有機物やリンを吸着して湖底に凝集沈殿させていたのです。湖底での撮影でフロックが確認できたということは、猪苗代湖がもつ自然の浄化作用がはっきりと証明されたということです。

猪苗代湖の最深部
ビデオカメラでとらえられた猪苗代湖の最深部(水深93.5m)の様子。茶褐色に見えるのは分厚く堆積した微粒子のフロック。
(写真提供:福島県)

川底が真っ赤
酸川と合流した長瀬川は一転して川底が真っ赤になります。ただし、水そのものは無色透明です。
無色透明な流れ
酸川と合流する前の長瀬川は鉄やアルミニウムが溶け込んでいます。しかし、無色透明な流れはきれいで山の中を流れている川となんら変わりがありません。

猪苗代湖
猪苗代湖は透明度も高く、生活用水としても利用されています。


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