水の話
 
不思議な酸性湖

水域によって異なる酸性度
 猪苗代湖は琵琶湖、霞ヶ浦、サロマ湖に次いで日本で4番目の大きさを誇る湖です。最大水深93.5m、平均水深51.5m、透明度は昭和5年に27.5mを記録していますが、最近は10mほどで推移しています。そして猪苗代湖を特徴付けているのがpH5程度の酸性湖だったということです。
一般に雨水は中性(pH7)だといわれていますが、大気中の二酸化炭素が溶け込むため、自然の状態でも弱酸性となっています。そこでpH5.6以下の雨を酸性雨と定義しています。酸性雨の被害がしばしば問題となりますが、金属を腐食させたりやコンクリートを傷めたりして建造物などに悪影響を与えるからです。また土壌を酸性化し、植物の根を痛め森林や農作物を枯らしてしまうこともあります。酸性雨の大きな原因は化石燃料の燃焼によって生ずる硫黄酸化物や窒素酸化物などが雨水に取り込まれるためです。川や湖が酸性化すると、魚類や水生昆虫なども生きられなくなってきます。
温泉の近くにある河川や湖沼も酸性化する傾向にあります。温泉の成分によって地下水が酸性化するためです。こうした場所では魚類や水生昆虫の種類があまり多くはありません。猪苗代湖のpHは5程度の酸性で、このことが猪苗代湖の水をきれいにしている理由の一つとなっています。ただし、それは同時に魚類や水中植物の種類はそれほど多くはないことを意味します。
それでも猪苗代湖には約20種の水生植物が群落をつくっています。魚類もウグイとギンブナを中心として、メダカや外来種のライギョなどを含め、20数種類が生息しています。ただし、これらの魚のすみ場所や産卵場所は湖の中でも比較的pHが高いところです。

長瀬川
猪苗代湖へ流入する河川の中で最大の水量を誇るのが長瀬川です。酸性度が高く、猪苗代湖を酸性にしている原因となっています。
ウグイ
猪苗代湖の北西側ではウグイを見ることができました。


赤い川の秘密
 猪苗代湖へ流入する河川は河川法の定義に従えば7本あります。その他の水路なども含め猪苗代湖へ流入する水量は年間約10億m3です。その中の一つに赤い色をした川があります。裏磐梯の秋元湖を水源とする長瀬川で、湖への流入水量が最も多く流入量全体の3分の2を占めています。この長瀬川こそが猪苗代湖を酸性にしているのです。ところが水源となっている秋元湖はそれほど高い酸性を示しているわけではありません。実は長瀬川を酸性にしているのは、強い酸性を持った酸(す)川が途中で支流となって流れ込んでいるからです。
長瀬川の河口付近のpHは3.7程度とかなりの酸性です。そして上流へ向かう酸川との合流地点のpHは約3.2程度となります。ところが合流点から上流の長瀬川本流のpHは一挙に7近くにまで上昇します。逆に酸川のpHはさらに下がっていき、上流部ではpH1.6程度にまで下がります(平成18年11月、猪苗代湖の自然を守る会調査より)。
酸川の源流は安達太良山(あだたらやま)です。ここでは昔から硫黄が産出していました。大正時代から昭和43年に閉山するまで本格的な鉱山開発が行われました。鉱山跡からは今も湧水が酸川へ流れ込んでいます。この水が酸川を酸性にしているのです。酸川には鉄やアルミニウムが溶け込んでいますが、長瀬川と合流することによって水のpHが高まり、溶け込んでいた鉄分が沈降して川底などに付着します。水そのものは無色透明ですが、沈降した鉄分によって酸川との合流地点から下流の長瀬川の川底が赤く染まるのです。

川底を赤く染めます
長瀬川の水源は裏磐梯で、もともとは中性の水質です。ところが途中で非常に酸性度の高い酸川と合流して酸性に変わります。逆に酸川は長瀬川との合流によって酸性度が弱まり鉄分などを沈殿させて長瀬川の川底を赤く染めます。


メニュー1 2 3 4 5 6次のページ