水の話
 
地下からの便り

ポンプ井戸の限界
 上総掘りの井戸はほとんどが自噴井戸です。農家の庭先にコンクリートなどで作られた小さな箱のようなものがあり、そこから絶えず水が流れ出しています。井戸はポンプか釣瓶で水を汲み上げるものというイメージが強いと、これが井戸ですと言われてもすぐには納得しにくい感じです。まして、横突き井戸は斜面からの湧水を竹などの樋で受けているだけにしか見えません。上総掘りのように自噴する井戸は水を汲むという労力は必要ありません。しかし、一般の井戸はポンプを使うにしろ釣瓶を使うにしろ、水汲みという労力がついて回ります。
ところで、このポンプはいつ頃から使われるようになったのでしょうか。日本にポンプが伝わったのは天明年間 (1781~1789)の頃とされています。最初は灌漑用の水を汲み上げるものとして伝わったようですが、時代劇などにも登場する「竜吐水」と呼ばれる火消し用ポンプに使われています。これが江戸末期から明治にかけて井戸用のポンプとして改良され広まったのです。ポンプを使えば釣瓶井戸よりも水汲みの労力は少なくて済みますが、基本的にはあまり深い井戸には使えません。というのも、手押しポンプが水を汲み上げる原理はポンプ内を真空にして、そのときに生じる大気の圧力を利用しているからです。そのため理論的には井戸水面までの深さが10.33メートル以内(実際には約8メートルまでが限界)までしか水は汲めません。電動ポンプを使ったとしても同じ結果です。では、これより深い井戸の場合、ポンプは使えないのでしょうか。下から水を押し上げる力を加えるならば水は上がってきます。そこで、ポンプのシリンダーとピストン部分を水面から汲み上げることが可能な深さまで降ろし、ピストンの押し上げる力で汲み上げればいいということになってきます。
ポンプ
井戸が深い場合、ポンプ(シリンダーとピストン)を水を汲み上げることができる深さまで降ろします。ポンプまで汲み上がった水はさらに、ピストンによって上へ押し上げられます。(参考資料:「井戸と水みち」)

竜吐水 竜吐水 竜吐水
原理は子供が竹で作った水鉄砲と全く同じです。下のところを水の中に入れ自転車の空気入れの要領でピストン部分を上下させます。右の写真は、このポンプを四角い桶の中に2つ組み込んだもの。一方のピストンが水を吸い上げているとき、もう一方のピストンは水を押し出すことになり、常に水を吐き出すことになります。 (左:村井産業(株) 右:愛知県知多市「水の生活館」)

水脈と水みち
 ところで、水脈とか水みちという言葉があります。地下を水が脈々と流れていたり、あるいは細い水の流れる道があるような感じです。そうだとすれば、こうした水脈や水みちの真上に井戸を掘らなければ水を得ることはできないように思われてきます。しかし、地下へ掘り進むことができれば基本的に水は得られるのです。

水脈というのは地下を水平に流れている川のようなものというよりは、帯水層のことを指しているといった方がいいのかも知れません。つまり、地下には平面的に水のある層が幾重にも重なっているのです。

一方、水みちというのは水脈とは少し違っているようです。これは確かに水の道といってもいいようなもので、集中的に水の流れる場所と考えてもいいようでしょう。しかし、この水みちは必ずしも自然に作られたものだけではないようです。例えば、一度掘った井戸は地下水位が低下したり、よほどの旱魃にでもならない限り水が枯れることはありません。井戸では底へ向かって常に水が流れ込むことによって、水みちが作られるのです。かつて、井戸は年に一度位の割合で水替えということが行われていました。これは井戸の水を汲み出してしまうことです。井戸底の溜まったゴミをさらえるという意味とともに水みちの通りをよくするためです。
水みちと水脈
水みちと水脈
水脈とはいわば帯水層のことで、水みちは特に水が流れやすくなった経路といえます。水みちは木が水を吸い上げる力や井戸を掘ることなsどでも作られます。(参考資料:「井戸と水みち」)
 使わなくなった井戸を埋めるときにも神主さんを呼んできてお払いをしたりします。また、地域によっては井戸の中へ梅の枝とヨシの茎を入れて最初にきれいな砂や石で埋め、それから土で埋めていくという方法がとられます。梅とヨシを入れるのは「埋めて良し」という縁起かつぎですが、最初にきれいな砂や石で埋めるのは、地下水が汚れ、他の井戸水を汚さないようにとの配慮からきたことのようです。また、節を抜いた竹を埋めた井戸の中へ差し込んでおくといいともいわれます。水は長いこと使わずにおくと腐ります。井戸の底に溜まった水からガスが発生することもあるため、そのガスを抜くためです。井戸を埋めるときのしきたりには、それなりの意味があるのです。しかし、こうしたことは、何よりも水を大切にしてきた人たちの優しい心配りの表われです。


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