水の話
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人の手によって守られてきた美しい風景

草原を維持してきた理由

 雨の多い地域の草原は人が何も手を加えずに放置しておくと、やがて樹木が生い茂ります。草原を維持しようとすれば毎年枯れた草を取り除き、新しい草を芽吹かせるようにしなければなりません。そこで阿蘇で行なわれてきたのが野焼きです。
草原を維持してきた一番の目的は牛馬の放牧です。野焼きをする事で牛馬のエサとなる草を芽吹かせるのです。また、牛馬につくダニなどの害虫を駆除する役目も果たしています。さらに農家の茅葺(かやぶ)き屋根の材料として使われていたススキを採集したり、堆肥(たいひ)にする草を刈り取るためにも草原は大事な場所でした。
野焼きは重労働です。野焼きをする時は延焼を防ぐため、山と草原との境を10mほどの幅で草刈りをして防火帯にします。これを輪地切りといいます。そして風のない日を選び草原に火を放ちます。野焼きは毎年3月の下旬頃に行なわれます。延焼を防ぐたたき棒を手にした人たちが山の斜面を駆け上ったり下ったりします。北側の外輪山は平坦な地形が多く、山頂部から中腹にかけて野焼きが行なわれますが、急峻な地形の多い南側の外輪山は主に中腹で行なわれます。


赤牛
肥後特産の赤牛。冬の間は麓で飼育され、夏になると阿蘇の草原で放牧されます。

野焼き
阿蘇の広大な草原は毎年行なわれる野焼きによって維持され続けてきました。最近は畜産農家の減少や高齢化によってボランティアの協力で野焼きを行なっている地域もあります。(写真提供:南阿蘇村)


場所によって異なる草原の植物

 草千里ケ浜の周辺では5月頃になると山肌はミヤマキリシマのピンク色で覆われます。草原で一番目につくのはススキです。でも、よく見ると様々な種類の植物が生えています。放牧地となっている草原は牛馬によって食べられ踏みつけられるため背の低いシバが優占しています。ワラビやアザミなどはこうした場所でみられます。
家畜の飼料とする干し草を採取するための草原では牛馬が放牧されないため、ススキなどが人の背丈ほどに成長します。ユウスゲやオミナエシなどはこうした採草地で見られます。この他にも茅野と呼ばれている場所があります。茅葺き屋根の材料に使うススキを採取するための場所です。
4月から5月頃にかけてオオルリシジミが草原を飛び交います。名前に「オオ」とついてはいますが、羽を広げても3~4cmほどの大きさの蝶です。オオルリシジミはマメ科のクララという草原に自生する植物の花穂(かすい)に産卵し、孵化(ふか)した幼虫はクララの蕾(つぼみ)や花を食べて成長します。野焼きによって草原を維持することで、草原にすむこうした貴重な昆虫や植物なども守られています。もしも草原がなくなれば、それらの姿は見られなくなってしまいます。
ところが最近は畜産業の低迷や化学肥料の普及により堆肥を使用する農家が減少しています。茅葺き屋根の家もいまではほとんど見かけません。草原を利用する必要がどんどん薄れています。しかも高齢化が進んでいます。こうなると、重労働である野焼きをしてまで草原を維持する必要性が薄れているような感じもします。実際、平成7年から2年間、野焼きが中止されたことがありました。
野焼きが行なわれなかった草原では緑が芽吹くことなく、夏になっても枯れたままのススキで覆われて、まるで冬と同じような光景になってしまいました。そればかりか新しい草の根が張らないため、雨が降ると斜面が崩れやすくなったのです。


オオルリシジミ
クララの上で羽を休めるオオルリシジミ。春に阿蘇の草原で美しい姿を見せてくれますが、草原がなくなると生きていくことができません。(写真提供:南阿蘇村)


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