水の話
 
淡水と海水の境の生きものたち

 海水の中にすむ生き物は海に、淡水の生き物は淡水でしか生きられないと一般には思われています。ところが、魚たちのなかには、海でも川でも生きられるものがいます。実際、サケやアユ、ウナギなどは海と川を行き来しています。海と川を行き来すれば、その途中で必ず汽水域を通過します。にもかかわらず、汽水域でのみ生活する魚介類は意外に多くはありません。

魚の浸透圧調整機能
 魚のほとんどは硬骨魚類に分類されますが、彼等の血液の塩分濃度は人とほぼ同じ0.9%ですが、海にすんでいる無脊椎動物の血液はもっと濃く、海の水とほぼ同じ濃さです。淡水にすむ無脊椎動物の血液は魚よりも、もっと薄くなっています。こうしたことが魚は汽水域で進化した証拠だとする説を唱える学者もいます。

 魚はもともと自由に泳ぎ回って生活をしていたのではなく、水中や底でじっとして口をあけ、流れてきたものを捕えていたといわれます。いまも、こうした魚の祖先と似た暮らし方をしている魚がいます。河口域にすむカワヤツメです。ただし、成長すると川をかなり遡ります。カワヤツメは脊椎動物のなかでも最も原始的なヤツメウナギの仲間です。吸盤状の口をもち、顎はありません。成体は魚の血を吸って生活しますが、幼生は泥の中にもぐり、有機物などをエサとします。
ミズトラノオ
中海に生えているミズトラノオ。中海は塩分濃度が高いため、海水に生える海草も成育しています。しかし、塩分濃度の低い宍道湖ではミズトラノオは見られません。

 ところで、海の魚と淡水の魚の一番大きな違いは浸透圧の調整機能です。魚の体液は海水魚も淡水魚もほぼ同じです。そのため、通常でも淡水魚は体液よりも薄い淡水が体内に入り込み、海水魚は体液が体の外へ逃げ出します。これを防ぐため、淡水魚は水を飲まないようにして、尿の形で水分を体外へ排出します。逆に海水魚は水をどんどん取り入れ、えらから塩分を排出するようにします。汽水域に入り込んだ場合、海水魚も淡水魚も日頃行っている調整機能を抑えてやるだけで、ある程度の塩分変化に対応できるため、エサの豊富な汽水域にたくさんの種類の魚たちは入り込んでくるのです。


オオノガイ
干潟は河口で形成されるのが一般的で、塩分濃度の変化を受けます。干潮時に泥を掘ってみると、いろいろな生き物がすんでいることが分かります。写真はオオノガイ。
(写真提供:須山知香氏)
 シジミは低塩分の中に入ると浸透圧を下げ、塩分が高いときは浸透圧を上げて、体の中と外の浸透圧を等しくします。このときアミノ酸が重要な役割を果たしていることが最近の研究で明らかにされています。シジミを真水の中へ入れると体内のアミノ酸をどんどん放出し、海水中ではアミノ酸を大量に作りだすのです。そして、海水中ではシジミは24時間でアミノ酸を5倍も増やします。

アミノ酸はうまみの成分としてよく知られています。つまり、シジミは料理する前に砂出しをしますが、真水で砂出しするとアミノ酸が減り、まずくなってしまいます。逆に塩水を使えば、よりおいしくなってきます。


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