水の話
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海と山を繋ぐ生態系
夕日に輝く水面は真珠の輝きを連想させます。その輝きはあたかも海の中から湧き上がってくるようです。ところが丘の上から望む海の美しさは必ずしも海の中の美しさとはいえないようです。カキをはじめ海の中にすむ生き物の水質浄化が見直されつつあります。

海が豊かであった頃の記憶
 浜辺の砂の上を小さなカニやヤドカリが動いています。潮が引いた後に顔を出した岩場にはカキがへばりついています。潮だまりでは小さな魚が岩の影に身を潜めます。透き通った海の底を覗いてみるとアマモやワカメが揺れています。大漁旗を誇らしげになびかせながら漁船が港へ戻って来ます。かつてはそんな海の姿が当たり前でした。ところが海が汚れだし、豊穣であった海は人々の記憶の中に押し込められようとしています。
海が汚れた原因はいくつもあります。自然海岸や干潟の減少といった海辺の改変もその一つです。日本が高度経済成長をしている頃は工場廃水が海を汚しました。土地の造成などによる山地の開発によって、大量の土砂が海へ流れ込んだこともありました。そして川を経て流れ込む家庭排水も海を汚す大きな原因となっています。
川の汚れは岸辺から眺めるだけで容易にわかります。美しい川を取り戻すには川の清掃、ポイ捨て禁止、家庭の中で汚れた食器を紙できれいにしてから洗う、無駄な水は使わないといったことを心掛けることによってかなりの効果があるといわれています。ところが海の場合は海岸線の清掃はできたとしても、海の中までは簡単に清掃することができません。特に閉鎖性の海の場合、一度汚してしまったならば元のような海を取り戻すことは容易ではありません。


湾


一つのカキで1日に風呂桶1杯分の水を浄化
 干潟が海水を浄化していることはよく知られています。海水を浄化する上で特に重要な役目を担っているのがアサリのような二枚貝やゴカイといった底生生物です。カキも二枚貝ですが干潟ではなく岩礁や護岸のコンクリート、桟橋の橋脚といったところで生育します。そしてカキもアサリ同様、水質浄化に大きく貢献しています。
カキはエサとして植物プランクトンをエラで濾しとる時、大量の海水を吸い込みます。1個のカキがエサを濾しとるために吸い込む海水の量は1時間で10~20Lといわれています。しかも24時間休むことなく海水を吸い込んでは吐き出します。つまりたった1個のカキが1日で一般家庭の浴槽のほぼ1杯分に当たる海水を濾過していることになります。カキのエサになるプランクトンはニッチア、キートセロスといった珪藻がいいとされていますが、基本的にはエラで濾しとることのできる大きさのものであれば、何でもエサにします。カキ養殖をしている海で仮に赤潮が発生したとしても、赤潮の原因となるプランクトンもエサにしてしまいます。



浅海の生態系に一役買っているカキ礁
 ところで岩や岸壁などでカキが重なり合うようにくっついていることがあります。さらに多くのカキが幾重にも重なり合って、岩礁のようになることがあります。これをカキ礁といいます。カキ礁は長い年月によって作られます。
カキ礁はかつて世界の多くの水域で見られていましたが、最近はその姿が減少しています。そのカキ礁が海の生態系や海水浄化に役立っているのではないかということで、少しずつ注目されています。
卵から生まれたカキの幼生は石や他の貝殻などに付着して成長します。そうして成長したカキ殻の上にさらにカキの幼生が付着して成長するといったことを繰り返すことで、カキ殻が岩礁のように大きくなるのです。大きく成長したカキ礁は消波ブロックのような働きを持つものもありますが、一般の岩礁とは違い貝殻が重なり合って大きくなるため、たくさんの空洞が作られます。つまり魚礁のような役目も持つことになります。またカキは海水をエラで濾しとり、エサにならないプランクトンは未消化の状態で排出します。これを偽糞(ぎふん)といいますが、海底にすむカニなど他の小動物のエサになります。小動物が多ければそれらをエサとする魚たちも集まって来ます。こうして浅海域の生態系を形づくります。

海岸
岩
カキは岩などの堅いものに固着して一生を過ごします。一度固着すると荒い波が来ても簡単にはずれることはありません。浜辺の岩には固着しても、砂の上に固着することはありません。

ロープ
カキが固着するのは必ずしも堅い岩やコンクリートだけとは限りません。海中である程度安定しているものであればロープのようなものにも固着します。ただし,一度固着してしまうと一生その場所からは移動できません。



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