水の話
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海と山を繋ぐ生態系

山から運ばれてくるカキの栄養

 カキ殻は90%以上が炭酸カルシウムです。その他には窒素0.09%、リン酸0.1%、カリウム0.03%、マグネシウム0.2%、珪酸0.48%、鉄1,750ppmなど(資料:財団法人鳥羽市開発公社)となっています。塩分を抜いて粉末にしたものを酸性土壌に撒けば、土壌を中和し改良することができます。カキ殻の粉末をコイなどの池に少量撒くことで池の濁りが改善されるともいわれています。
カキの生育に適した海は川が流れ込む場所です。日本でカキ養殖が行なわれている場所を見ると、大抵は河口域になっています。河口域が養殖に適している理由の一つが川によって運ばれてくる山からの養分です。三重県の的矢湾に流れ込む川のうちの1本を辿ると、「天岩戸」に行き当たります。日本神話に出てくる天岩戸はここだけではありませんが、山を一つ越せば伊勢神宮です。つまりこの川の水源は清浄なる森の一角です。
別の川もそうした森の一角を水源としています。しかもそこは石灰岩の多い地形です。カキが成長するのにカルシウムが必要です。腐葉土から溶出した山の栄養分とカルシウムを含んだ水が的矢湾には流れ込んでいるのです。


河口
源流
カキの養殖に適した場所は山からの養分が運ばれてくる河口近くです。三重県の的矢湾に流れ込む川の1本は天岩戸伝説のある伊勢神宮の神域が源流です。また、カキの生育に必要なカルシウム分を含んだ地層を通って流れ込む川もあります。


粉末
カキ殻の成分の大部分は炭酸カルシウムのため、粉末にして酸性土壌などの改良材としても使われています。


海を守るため、山に木を植える人達
 植物の生育に必要なものは一般に水と養分と光合成をおこなうための日光です。こうした条件さえ揃えば極地や砂漠といった特殊な場所を除いて植物が生えるのが普通です。海の中でも同じです。
光が十分に届く浅海の岩礁などでは海藻の群落が見られます。それも何種類もの海藻があるのが普通です。陸上の雑木林には多くの鳥や虫たちがすんでいます。海藻が生えている場所は藻場と呼ばれ陸上の雑木林と同じで多くの種類の魚介類がすんでいます。藻場は魚介類のエサ場となるだけでなく産卵の場所も提供します。あるいはふ化して川を下って来たサケなどは河口付近の藻場である程度成長してから北の海へと旅立ちます。そうしたところから藻場は海のゆりかごとも呼ばれています。
ところが近年になって藻場が消失しています。こうした海の砂漠化のような現象を磯焼けといっています。磯焼けが起きると、そこを住処(すみか)としていた魚介類はいなくなります。
磯焼けにはさまざまな原因があります。ウニやヒトデ、あるいは藻をエサとする魚の大量発生による場合もあれば、海水温の上昇といった気象の変化もあります。また、土砂や生活排水の流入といったことや、森林の荒廃によって川が運んでいた栄養分の減少といった場合もあります。一度磯焼けを起こした海は、簡単には元の姿に戻りません。
そうした中で海を守るため山に木を植える人達が増えています。真珠で有名な三重県の英虞湾の海底も土地開発によって山の土砂が流れ込み堆積しているといわれています。堆積した土砂によってアサリなどがすめなくなっています。
そこで英虞湾の背後の山に、官民一体となって10年以上前からヤマザクラやグミ、ドングリなどを植樹する活動が行なわれています。いずれの日にか、この山に降った雨はヤマザクラやドングリによって作られた腐葉土によって濾過される過程で、山の栄養分を溶かし込み海へと運ぶことになるでしょう。そしてさまざまな海の生き物の命を未来へとつないでいくのです。


木
豊かな海の生態系を形づくるには、海の生き物を育てる養分を運んでくれるきれいな川の流れが大切です。英虞湾の水質を考える会でも、海を守るため山にドングリなどを植える活動に取り組んでいます。


英虞湾
リアス式海岸が美しい三重県の英虞湾。未来にわたり美しい海を守るには、山や川を守ることも大切です。


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