水の話
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海洋深層水の秘密

エネルギー分野から農水業まで幅広く活用

 いまから20年ほど前まで、炭酸水のようなものを除き、水そのものが商品として売られることはほとんどありませんでした。しかしおいしく安心して飲める水への関心が高まるにつれ、ペットボトル入りの水が売れだし、今ではさまざまな「名水」が販売されています。これらの水は主に地下水を原料とした淡水です。そうしたペットボトルの水とともに海洋深層水を見かけることがあります。
海洋深層水といっても、基本的には海水で、そのまま飲むことはできません。飲料用にする場合は脱塩します。脱塩した海洋深層水は名水と同じようにまろやかな舌触りと味で、コーヒーやお茶などに使うと味を引き立たせるといわれています。海洋深層水はこうした飲料水だけでなく、さまざまに活用されています。
海洋深層水の低温性を生かして冷房への利用を行なうことができます。汲み上げた海洋深層水はそのまま熱交換器を通すだけでいいのでエアコンのように冷媒を圧縮するためのコンプレッサなどを使う必要がないので、省エネを実現します。また土の中に埋め込んだパイプの中に海洋深層水を通して土の温度を下げることで夏場の高温に弱い野菜の栽培を可能にします。温度差発電の研究も行なわれています。表層の暖かな水で気化しやすい液体から蒸気をつくり、タービンを回して発電します。蒸気は深層の冷たい海水で再び液体に戻します。
低温でしかもバクテリアが少なく清浄であるため、海洋深層水を漁船の水槽に入れておくことで、獲ったばかりの魚介類の鮮度保持にも役立ちます。魚介類の養殖や安定的に出荷するための畜養施設にも利用ができます。


水を汲む様子
海洋深層水といっても海水の90%以上を占めています。そんな海洋深層水を多くの人や企業が求めています。表層水とは何かが違うようです。


海水の大部分は海洋深層水

 海水には地球上のほぼ全ての元素が溶け込んでいます。主な物質は塩化ナトリウムや塩化マグネシウムで、イオンの状態になっています。金や銀、鉄も溶け込んでいますが、あまりにも微量なため簡単に取り出すことはできません。こうした元素は地球上に約100種類存在しています。
元素のうち人体を構成している主要な成分である酸素、炭素、水素、窒素を除いたものはミネラルと呼ばれています。人の生命活動に必要とされるミネラルは分かっているものだけで40種類以上ですが、その中でもさらに重要とされているのがマグネシウム、カルシウム、リン、硫黄、カリウム、ナトリウム、塩素です。この他にもマンガン、モリブデン、銅などの微量な元素が含まれています。
農作物が台風などによって海水をかぶると、塩害といって生育に悪影響を与えることは知られていますが、一方で海水が農業などに利用されてきたことはあまり知られていません。畑のカルシウムが不足してきた時は貝殻を、また微量の海水を撒くことでマグネシウムなどを補給してきました。さらに、酒造りの現場ではビール酵母や麹菌の働きが弱くなった時にも、微量の海水を加えていました。
ところでこれらの成分は海水であれば表層水にも海洋深層水にも含まれています。ただ、海洋深層水は表層水に比べてケイ酸塩、リン酸塩、硝酸塩が多く含まれています。こうした海洋深層水の特徴は取水地域によって大きく異なることはありません。
海洋深層水と表層の海水との違いは低温で清浄、そしてミネラルが豊富ということくらいです。ところが海洋深層水は食品、健康、医療、エネルギー、農業、水産業などさまざまな分野で活用されています。そのため、海洋深層水は特別な水のように思われがちですが、地球上の海水のうち水深200m以深の水は90%にも達します。つまり、海洋深層水が特別な水なのではなく表層水の方が特別な水だと言えるのです。
表層の水は人為的な影響を受けやすい水です。海水に含まれるさまざま成分を供給する時に大きな役割を果たしているのが河川です。しかも表層の水こそが海中での食物連鎖の中心であり、地上の生物たちを支えているとも言えるのです。


海洋深層水を散布
希釈した海洋深層水を畑のさまざまな作物に散布することで、成長を促進させるなどの効果が実験でも確かめられています。
(写真提供:入善町)

海辺


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