水の話
 
水の中で増えている昆虫と減っている昆虫

池や田んぼからいなくなった虫
 ゲンゴロウ、タガメ、タイコウチ、ミズカマキリなどの姿があまり見られなくなっています。各都道府県が作成しているレッドデータブックなどでも、絶滅危惧種に指定しているところがたくさんあります。これらの水生昆虫がすんでいるのは池で、しかも、陸と水との境が中心です。つまり、水中での生活に十分適応しているものは少ないのです。そのため、水の汚れの影響を受けることはあまりないようです。むしろ富栄養化している水域の方がすむのには適した環境です。
水の汚れの影響がないとすれば、なぜ数を減らしているのでしょうか。かつては農薬によってかなりの影響があったとされていますが、現在では以前のようには農薬も使用されていません。そこで考えられるのがため池などの減少や水辺環境の変化です。田んぼには畔があります。タイコウチやミズカマキリが普段生息しているのはこうした畔の下の水の中です。そして時期になると畔の上に這い上がり土の中などに産卵します。タガメも陸上で越冬します。ところが圃場(ほじょう)整備によって畔やため池の水際部分を水漏れ防止のためコンクリートで固めたり、プラスチック状の板などが埋め込まれ、陸と水との間を自由に往復できなくなりました。この他にも水田に水を入れるのは田植えの時期だけで昔のように年間を通して水が張ってある田んぼがなくなったということも考えられます。こうしたなかでコオイムシだけは増加傾向にあるといいます。コオイムシは水の中だけで生活の全てを完了させることができる水生昆虫だからです。
ミズカマキリ
ミズカマキリは陸上のカマキリとそっくりな形をしています。尾から延びた長い呼吸管で空気呼吸をします。卵にも呼吸管がついています。
オオミズスマシ
オオミズスマシは後ろ足と真ん中の足をスクリューのように回転させて水面をくるくる回っています。前足は水草などに捕まるために、長く発達しています。(写真提供:伴幸成氏)

砂漠化する日本の水環境
 池や田んぼの水生昆虫が減少し、代わりに増えている生物がいます。カブトエビ、ホウネンエビ、カイエビといった生物です。これらは昆虫ではありません。もともとは砂漠にすんでいた生物です。砂漠では雨がほとんど降りません。そして一度雨が降り、僅かな水たまりができたならば、水が乾ききらない短い期間に卵から孵(かえ)り成虫となり交尾して産卵までの過程を全て終え、再びいつ降るとも分からない雨を待つのです。
水生昆虫は1年というサイクルを通して生活をする生態系が出来上がっています。ところが、今の日本では砂漠の水たまりと同じように、ある一時期だけ急激に増える生物が増加しているのです。カブトエビ、ホウネンエビ、カイエビなどは卵が大陸から黄砂と一緒に日本へ運ばれてきたのではないかと考えられています。


メニュー1 2 3 4 5 6次のページ