水の話
 
コケの役割と苔文化

大量の水も二酸化炭素も吸収するミズゴケ
 コケ植物の中でも一般にも馴染みの深いのが、園芸などで使われるミズゴケです。北半球に広く分布しているコケ植物で、北極圏に近いツンドラ地帯などを覆い、ミズゴケの堆積したものはピート(泥炭)と呼ばれています。ミズゴケは日本でも林間の湿った場所で見られます。特に、尾瀬ケ原のような湿原はミズゴケが堆積することによって形づくられてきました。ミズゴケの大きな特徴は、葉緑素を持った普通の細胞の他に、透明で中身がない空の細胞をたくさん持っていることです。いわば、体の半分がスポンジでつくられているようなもので、乾燥した重量の20倍もの保水力があります。保水力が非常に高いため、ランの鉢などに入れられています。しかも、ミズゴケは優れた抗菌性も持っています。室内などに放置しておいても、カビが生えることがありません。かつて欧米ではミズゴケを乾燥させて脱脂綿の代用品や、北欧などでは赤ちゃんのおしめとして利用されていたそうです。
 またピートは、湿原に生えるミズゴケが枯れて腐ることなく何万年という歳月をかけて堆積してできたもので、乾燥させたピートは燃料としても使われます。ピートの埋蔵量は、一説によると石油1,000億トン分に相当するといわれ、北欧では火力発電所の燃料にも使われています。また、樽の中でピートを燃やしてスコッチウイスキーの色や香りをつけることでも知られています。ところで、ミズゴケは植物として光合成をするときに多量の二酸化炭素を吸収します。森林も多量の二酸化炭素を吸収しますが、枯れると微生物の働きによって分解されて、せっかく貯め込んだ二酸化炭素を再び大気中へ放出します。しかし、ミズゴケは何千年にもわたり分解されることなくピートとして堆積していくため、二酸化炭素を貯め込んでいきます。

ミズゴケを乾燥させて植木鉢に入れた コケボール
ミズゴケを乾燥させてランや観葉植物の植木鉢に入れたものをよく見かけます。最近は、植物の根元を直接ミズゴケで巻き、コケの緑や姿も楽しめるコケボールもよく見かけます。

コケ植物こそ本当の緑のダム
 山は緑のダムだといわれます。緑に覆われた山と木の生えていない山とでは保水力に大きな差があります。しかし、これは木々が水を貯えるのではありません。森の中の地表面は落ち葉やそれらが腐った有機物によって腐食土壌がつくられ、その下には砕けた岩石と有機物とが混じりあった土の層があります。この腐食土壌の層には空気孔がたくさんあり、そこに水が貯まるのです。そして木々はそうした土壌が雨などで洗い流されないようにしているのです。
 一方、こうした森の中へ足を踏み入れて見ると、分厚いコケ植物の層が地表を覆っていることがあります。ときにはコケ植物の厚みが20センチ近くになっているところもあります。群生したコケ植物自体には優れた保水力があり、ときには1ヘクタール当たり50トンもの水を貯えるともいわれています。

岩のコケ 地面のコケ
木のコケ コケ植物は水さえあれば都会の片隅から山奥の渓谷まで、どんな場所にも生えています。様々な場所に生えていることが、それぞれの環境の違いを比較しやすくさせることにもなり、環境のバロメーターとして使われているようです。


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