水の話
 
海と川によって異なる舟の形

山に入った舟大工
 舟をつくるには、太くて長い木が必要です。使われる木材としては、水に対して丈夫なマキが好まれるようですが、大きな木になればなるほど、運搬は容易ではありません。山から造船所まで運搬する方法は川を使うことです。舟をつくるのに、どれだけいい木があったとしても、造船所まで通じている川がなければ使うことはできませんでした。そうしたこともあって、舟に使われる木の種類はそれぞれの地域によって異なってきます。針葉樹とか広葉樹といった区別はありません。
かつて琵琶湖の舟をつくるときに鳶(とんび)とよばれ、山の木について詳しく知っている職業の人が活躍していました。彼等は黒いマントを着て、どこの山にどんな木があるのかという情報を商売としていました。舟大工が舟の注文を受けると、それに適した木を入手するため、鳶から木の情報をもらいました。木は、その地域の木こりに頼み伐採してもらうのですが、切るのは梅雨が明けてからです。倒された木はそのままの状態で乾燥させます。大きな舟をつくるのに適した木があるのは山奥です。現在のように林道もトラックもない時代には、山奥から木を運搬するのは大変な労働でした。そこで、運搬には冬の雪を利用して、斜面を滑らせて川のあるところまで運び出しました。さらに春の雪解けを待ち、増水した川へ丸太のまま流します。それを下流で集め、筏師が筏に組んでそれぞれの舟大工のところへ運びました。ところが、昭和に入るとまもなく、鳶とよばれていた職業が姿を消していきました。そこで舟大工自身が直接山に入り、木を見立てるようになりました。
舟をつくるためには、木の上の方の太さも分からなければなりません。木の上の方の太さを測るには「目立て」という方法がとられました。これは、特別な道具を使うのではなく、木の前に立ち、目の前の幹の太さを測るだけです。たったそれだけのことで、木の種類ごとに幹の上の方の太さまで判断できたのです。そしてキツツキの穴の有無などを確認し、舟に適した木であれば切り出したのです。
現在では、舟大工が直接山に入って木の善し悪しを見分けることはありません。材木屋から購入することがほとんどです。そればかりか、舟大工という職業に従事する人が非常に少なくなっています。
舟大工の仕事は舟をつくるだけで、櫂や櫓は建築大工がつくっていたという地方がたくさんありました。しかし、舟大工そのものが少なくなっているいま、櫂や櫓も舟大工によってつくられることが多いようです。舟を組み立てるときに使われる舟釘も、特殊なものだけに特別注文をしなければなりませんが、やはりつくることのできる鍛冶屋さんは少なくなっています。
アカトリ
舟の中に入った水を汲み出すときは「アカトリ」という木でつくられた道具が使われます。

櫂と竿
流れのある川では、櫓よりも主に櫂と竿が使われます。川を横切るときは、流れに対し舟を斜めにして櫂を操ります。

コウヤマキ 打ち込む穴
舟釘長良川の鵜飼のときに使われる遊覧船の材質はコウヤマキです。マキは水に強いため風呂桶などにも使われています。舟釘は、あらかじめ打ち込む穴をあけてから打ち込んで埋め木をします。


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