水の話
 
砂の中から、静かに海を見つめる浅瀬の住民

アサリを食べる貝やヒトデ
 アサリがたくさん採れた年などは、漁師さんたちは「今年はアサリがたくさん湧いた」という表現を使います。その年の水温、海水に含まれる栄養分など様々な条件が一致すれば、豊漁につながるのです。出水により海底の砂などがきれいになる台風などの気象条件も影響する場合があるようです。
硬い貝殻に覆われたアサリにも天敵はいます。ヒトデ、キセワタガイ、ツメタガイなどがその代表です。
ヒトデはサンゴやウニなどを食べ、海の生物にとっては恐れられる存在です。もちろん、貝にとってもかなり怖い存在です。ヒトデは貝に被いかぶさると貝殻をこじ開けて身を食べてしまいます。
ツメタガイはアサリに被いかぶさり、殻に穴をあけて捕食します。しかし、金銀よりも硬いといわれている炭酸カルシュウムでできた硬い貝殻にどうやって穴をあけるのでしょうか。ツメタガイの歯だけではとても歯が立ちません。そこで、酸の一種を分泌し貝殻を柔らかくしながら削っていくのです。この貝は茶碗を伏せたような形の卵塊を作るため、その卵は「砂茶碗」と呼ばれています。
キセワタガイも巻貝の一種ですが、貝殻は体の外ではなく体の中にある貝です。大きさは3センチほどで泥の中を這い回りながらアサリの稚貝を捕食します。かなりの大食漢で1m2あたり1~2個のキセワタガイがいるだけでアサリの稚貝がほとんど食べ尽くされてしまうこともあります。ところが、この貝は真水に弱く、河口付近で大水が出るとかなり減少します。アサリが河口近くに多いのも、こうした天敵から身を逃れるためかもしれません。
貝にとって身を守る最大の武器は硬い貝殻です。殻の厚みを増せば増すほど丈夫になりますが、あまり厚くすると貝自身にとって大きな負担となってきます。そこで貝殻の表面に凹凸をつけることによって強度を増しています。巻貝はラセン状の形によって貝殻の強度を高めています。アサリも表面をよく見ると、年輪のような細かな筋がたくさん付いています。これは輪肋(りんろく)あるいは成長肋と呼ばれるものです。ときどき、この輪が歪んでいるものがあります。かつて公害が社会問題となったとき、この歪みと公害の関係が議論されたことがあります。歪んだ輪は「障害輪」といわれ、成育環境が悪いと現われることは分かっていますが、公害との因果関係があるかどうかは明確ではないようです。

干潟
干潟にはさまぎまな生物が生きています。
鳥たちにとっても格好のエサ場となっています。
アサリの貝殻
アサリの貝殻の表面の色や模様は遺伝的な系質によるものではないかとされ、生息している地域によって異ります。千葉県のアサリは黒と白の違いがはっきりしています。

キセワタガイ
ツメタガイ
アサリの稚貝を捕食するキセワタガイ(上)。キセワタガイは透明に見えますが、貝殻は体の中にあります。ツメタガイは成長したアサリの殻にも穴を開けて中身を食べます(下)。

プランクトンによって引き起こされる貝の毒
 貝を食べて食中毒になったという事件がときどき報道されます。ゴニオトキシン、サキシトシンなど複数の毒成分によるものです。フグ中毒に似た症状を現わしますが、この毒は特殊な貝だけが持っているのではなく、どんな貝でも持つ可能性のある毒です。というのも、貝がエサとするプランクトンの中に毒を持つものがあるからです。このプランクトンが増えると、それをエサとして摂取した貝の内臓にその毒が溜まり、それを人が食べることにより中毒となるのです。ただ万が一、貝が毒を蓄積したとしても、毒化している期間は数週間から1か月程度とそれほど長くはなく、やがて毒はなくなります。貝毒の発生しやすい時期は1~7月頃です。また、貝が毒化するかどうかは海水に含まれるプランクトンを調べれば分かります。近年は全国的に毒化した貝の報告がありますが、全国の水産試験場などが常に海水を検査し、少しでも危険な状態になったときには漁も出荷も停止されるので毒化した貝が市場に出回る心配はありません。また、アサリはあまり毒を溜めない貝で、仮に毒を溜めたとしてもかなり早く排出してしまうので、他の貝よりは安全度が高いといわれています。


メニュー1 2 3 4 5 6次のページ