水の話
 
炭焼が山を耕す

 海の魚は山の木が育てるといわれています。魚や海藻は川から運ばれてきた栄養分で育っているという意味です。川の水の栄養は山の木によって作られます。その山には、豊かな自然の恵みがあるのです。そして、人と自然が共生していたのです。

二酸化炭素を減らす炭
 平成9年12月、地球温暖化防止京都会議(気候変動枠組条約第3回締結国会議=COP3)が開かれました。二酸化炭素(CO2)を始めとした温室効果ガスの排出量を、2010年頃までに、1990年を基準として地球全体で5%減らそうというものです。日本に割り当てられた削減目標は6%です。この数字を達成するため、日本では森林によるCO2の吸収分を3.7%と計算しています。これをカーボン(炭素)に換算すると、約1,100万トンという数字です。とにかくものすごい量のCO2を森林は吸収してくれるのです。

ところで、木がCO2を吸収するといっても、あくまでも成長している木のことです。老木はやがて枯れ、いずれは分解して土に戻ります。このとき、再びCO2が大気へと戻っていくことになります。

炭焼は、木に蓄えられたCO2を山から運び出すことにもつながります。もちろん、燃料として消費すれば、再びCO2を排出することにもなりますが、現在のように土壌改良や水質改善、あるいは住まいの湿度を調整するために建物の床下に入れるといったことに使われるならば、CO2は永久に固定されることになるのです。住宅廃材などを炭にして、公園や建物の床下に埋めるならば、ゴミ処理と環境保全の両方にもつながってきます。

自然と共生する炭焼
 「自然」というものに対して、二つの意見があります。一つは自然にはできるだけ人間の手を加えない方がいいというもので、もう一つは、人が手を加えなければ自然はかえって荒廃するというものです。それぞれに一理あるのでしょうが、荒れた山を放置することや、開発を行うことではないはずです。日本の山は過去において、何らかの方法で人の手が加えられている場合がよくあります。炭焼の行われていた山にもそうした痕跡を見ることができます。例えば、紀州備長炭の原木には姥目樫などが使われます。山の中へ入ると、根元の方から数本の株に分かれた木をよく見かけます。これは、かつて人がこの木を切った証拠です。切られたことのない木は一本の株として立ち上がっています。若く勢いのある木は、根元の方から切り倒しても、新しい芽をいくつか出して成長します。20~30年経ったところで、古株から成長した木のうち1~2本を残して切るのです。こうして炭を焼けば、20~30年後には再び炭焼に適した木に育つのです。こうした繰り返しによって、山の木は常に再生をしていたのです。人が手を加えるといっても、自然の破壊につながるようなことはなかったのです。

紀州 紀州は梅の産地としても有名です。急峻な山肌を開墾して作られた梅畑やウバメガシの森は「開発」とは違う人と自然の共生があるように思えます。

1度切り倒しても新しい芽がでてくるウバメガシは、同じ株を20~30年毎に炭の原木として使うことが可能です。そのため、長年炭焼が行われてきた山では根元で数株に分かれた木が見られます。
ウバメガシ

ウバメガシ ウバメガシは亜熱帯性の植物です。はっきりとした年輪は見られません。
ウバメガシの実 ウバメガシの実。この実は食用にすることもできます。


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