炭本来の目的は燃料用です。しかし、それ以外にもいろいろなことに利用されてきました。昔から、もっともよく知られているのが水の浄化です。炭の層を通すことによって水の汚れが取り除かれるのです。脱臭効果や吸湿作用があることも知られていました。ところが、最近はこうしたこと以外にも、炭には実に多くの利用方法のあることが分かってきたのです。 水をきれいにする炭 炭が水をきれいにすることは、昔から知られています。水を濾過するとき炭を敷いてその上に砂や小石などの層を作り、その上から水を流すという方法です。このとき炭は、汚れを濾過するだけでなく、臭いまで取り除いてくれるのです。 なぜ、炭が水をきれいにして、さらに臭いまで除去してくれるのでしょうか。その理由は、炭には非常に細かい穴があるということです。どんなに堅い植物も、小さな細胞が集まって作られています。木を炭にすると、これら一つ一つの細胞に含まれている水分や様々な成分が取り除かれ、炭素だけが残るのです。当然そのぶん、木は収縮します。炭の断面の顕微鏡写真を見ると分かりますが、細胞の形がそのままきれいに残っています。これらの面積をすべて合わせると、たった1gの炭の表面積は300～400m2にもなるといわれています。いわば、非常に目の細かいフィルターのようなものです。それによって汚れた水を濾過し、臭いの分子も吸着してしまうのです。 金属的な光を放つ白炭。顕微鏡写真で見ると、組織が密に詰まっている様子が分かります。なかでも、備長炭（左）は、中国産（中）、や雑木（右）で焼かれた白炭に比べ組織の間の空隙が非常に少ないことが分かります。 （写真提供：南部川村森林組合） 　しかし、目が細かいということは、臭いは吸着しても、ミクロン単位の汚れしか濾過できないということです。最初のうちは水がきれいになっても、やがては目詰まりを起こしてしまいます。ということは、水をきれいにする理由が他にもあるのでしょうか。炭の微細な穴は、濾過以外にも大きな働きをします。というのも、この穴は微生物にとって格好のすみかになるのです。炭には微生物の生存にとって必要な無機成分が含まれているからです。つまり、炭による水の浄化は濾過とともに、微生物による有機物の分解によることが大きいのです。 最近は炭による水の浄化を試みるところが増えていますが、たんに汚れた水の中へ炭を入れておくだけでは、必ずしもきれいにはなりません。ある程度濾過した水を通すことが、炭の働きをより効果的にするのです。 炭による水質浄化機能を利用した水処理も各地で試みられています。フジクリーンでも水処理の最終工程で炭を使った処理方式や、活性炭吸着装置などを採用しています。 土を健康にする炭 　昔は春が近くなると、雪国では畑に灰や炭の粉をまいていました。黒い炭は雪を早く融かしてくれます。しかし、雪を融かすだけではなかったようです。枯れ木に灰をまいて花を咲かせた「花咲爺さん」の童話は誰もが知っていることでしょう。炭はpH9程度のアルカリ性です。植物の生育にはpH5～6程度の弱アルカリ性が適し、これより酸性でもアルカリ性でも良い影響は期待されません。では、炭や灰がなぜ植物の生育にとって良いのかといえば、これらの中に含まれているミネラルが雨水などによって溶けだすことと、酸性に傾いた土壌を中性に引き戻す効果が高いからだといわれています。つまり、土壌改良の効果が高く、植物の生育にとってはいいのです。そのため、最近のガーデニング・ブームで炭を庭や植木鉢の中へ入れる人が増えています。 炭の成分は90％以上が炭素です。しかし、カルシウム、マグネシウム、マンガン、酸化鉄、カリウムなどのいわゆるミネラル分も含まれています。これらの養分が植物の生育に良い影響を与えるのです。炭を飲料用の水の中に入れておくと、おいしい水になるというのは、これらのミネラル分が溶け出すことにもよるのです。もちろん、炭の濾過作用で水中の「有害物質」や消毒に使われている「カルキ」などが除去されるということもあるのです。 しかし、炭の土壌改良剤としての働きは、こうした養分よりも、もっと別なところにあるようです。その大きな理由として多孔質があげられます。炭を埋めるのは土の中に空気をたくさん入れるのと同じことになり、保水力をもちながら、しかも水はけをよくしてくれるのです。この小さな穴は、土の中の余分な農薬や化学肥料も吸着してくれます。 水を浄化するときと同じで植物にとって有益な微生物も増えてきます。例えば、植物と共生して、養分をもらう代わりに植物に必要な養分を供給する菌根菌や空中窒素を固定する根粒菌などです。もちろん脱臭作用があるため、有機肥料の臭いもかなり抑えることができるといわれています。 メニュー｜1 2 3 4 5 6 7 8｜次のページ