水の話
 
炭の持つ不思議な力

炭から作られる木酢液
 炭焼小屋から立ち上る煙は、古き良き時代の里山の風景といった趣があります。炭は原木のときに比べ重さで8分の1、長さは4分の3になります。つまり、木の成分の多くは煙となって放出されるのですが、その成分の多くは水分です。そこで、煙を集めて冷やしてやると、液体となって回収できます。ハムやソーセージのような燻製品に似た、しかも酸っぱい臭いがします。事実、舐めてみるとかなりの酸味がします。これが炭焼の副産物としてとれる木酢液です。水分を除いた主な成分は酢酸で、この他には脂肪酸、メタノール、アルコール、アセトン、ホルムアルデヒド、フェノールなど、200種以上もの成分が含まれています。酸性度はかなり強く、紀州備長炭から採取した木酢液を測定したところ、pH2.3もありました。


 この木酢液の効用が最近になって、注目されています。たとえば、養豚場や養鶏場で糞尿に振りかけることによって臭いを取るのに使われたり、有機農業を行うときの土壌改良剤として畑にまかれるなどしています。ブームとなっているガーデニングでも、植物の生育によく、虫がつきにくくなるといって紹介されています。また、風呂に入れると、肌がすべすべとなり、温泉のような効果があるとされています。しかも、水虫やアトピー性皮膚炎にも効果があり、カミソリ負けもしないといわれています。酢酸が主成分ということは、酢と同じようなものですから、消毒作用があるということで、水虫に効果があるというのもうなずけます。

ヨーロッパでは17世紀ごろから、木酢液を酢酸メタノールなどの製造に利用していたようです。日本でも、日露戦争(明治37~38年)のころには、木酢液に石灰を混ぜ、これから火薬の原料になるアセトンが作られていました。

紀州備長炭の産地・和歌山県南部川村は、梅の産地としても有名です。以前、梅畑の近くに炭焼窯を作ったとき、畑の所有者が、煙で梅がダメになるのではと心配をしました。ところが、実際には煙のかかった畑の梅は、他の畑よりいい実がたくさん収穫できたというのです。

木酢液のpHは2.3もの強い酸性です。そのもととなる煙がかかれば、酸性雨と同じような被害が出るのではと思われます。確かに、木酢液を原液のまま植物に与えれば、根はダメージを受け、枯れてしまいます。ただ、酸性雨被害の元となる酸は硫酸や硝酸などの強酸です。それに対して酢酸は弱酸といわれるもので、酸としての性質が異なります。しかも、通常は数百倍から1千倍ほどに薄めて使われるため、酸が根にダメージを与えることはなく、むしろ殺菌作用の方が働くのです。それにしても、殺菌作用だけで植物の生育を良くしている訳ではありません。木酢液の何が植物の生育を助けているのかは、正確にはまだ解明されてはいないようです。
木酢液1
木酢液の作り方は意外と簡単です。炭焼小屋から出てくる煙を長い煙突に通せば、自然に冷えて液体となって回収できるのです。ただし、そのままではタール分がたくさん含まれているため、回収した液を1ヵ月ほどかけ、タール分を沈殿させます。さらにろ紙などで濾すと茶色くて透明な木酢液になります。
木酢液2
炭焼窯の中に並べられた原木。この木が熱分解するときにさまざまな木の成分が煙となって排出されますが、木酢液としてそれを再び回収します。
木酢液3
木酢液がとれるのは窯から出てくる煙が白い色のときです。黒い液状のものが木酢液です。
木酢液4
木酢液。風呂(200リットル)に入れる場合は5ccほどで十分です。

炭の持つマイナスイオン効果
 かつて、炭の多くは燃料用として使われてきました。ところが、最近の炭ブームの理由は炭をたんなる燃料として見るのではなく、炭や木酢液が持つ不思議な力が関心を集めているようです。そうした中で最近になって注目されているのが、炭のもつマイナスイオン効果です。

イオンというのは、電荷をもつ原子または原子団のことです。物質の最小単位である原子は、原子核と周囲を回る電子によって作られています。電子はマイナスの電気を持ち、原子核の中にある陽子はプラスです。普通、電子と陽子のプラス、マイナスは同じ数で釣合がとれていますが、なんらかの刺激によって、電子の数が増えたり、減ったりします。これをイオンというのです。電子の数が増えたものがマイナスイオンです。人の健康には空気中にマイナスイオンが多い方がいいといわれています。山や森の中へ入って滝や渓流の近くへ行くと気分が爽快になるのは、水が砕けて細かな水滴となるときにマイナスイオンを発生させるからです。都会は様々な電子機器に取り囲まれ、それらによって発生される電磁波などで、空気がプラスイオン化されているといわれています。そのため、マイナスイオン発生装置といったものもつくられています。

こうした中で最近になって注目されてきたのが、炭によるマイナスイオン効果です。南部川森林組合がマイナスイオン研究会(代表・東京大学医学部・工学博士山野井昇氏)に依頼した結果によると、部屋の中に炭を置くと、マイナスイオンが明らかに増加するということが分かったのです。このとき、紀州備長炭のほか、何種類かの炭が実験に使用されました。そして面白いのが、同じ白炭や黒炭であっても、産地や原木によってマイナスイオン発生量に差があるということです。ということは、同じ備長炭でも焼き方の微妙な差で数値に差がでる可能性はあるということです。とにかく、炭がマイナスイオンを出すということで、また一つ炭の不思議な力が確認されたのです。

ウバメガシの山 雑木林
ウバメガシの山。白炭の原木としては優れたウバメガシですが、他にはこれといった使い道はありません。見方を変えれば、他の使い道がなかったことが、優れた炭を作り出す結果となったといえなくもありません。炭が見直され、需要が増えているいま、備長炭の産地ではウバメガシの植林にも力をいれています。
かつては雑木林の中から立ち上る炭焼の煙は、ごく当り前の風景でした。一時は姿を消していたこうした風景も、最近になって炭が再び見直されてきたため、しばしば見ることができるようになってきました。


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