水の話
メニュー1 2 3 4 5 6|次のページ
 
食品から水処理技術まで活躍する微生物

家ごとに異なる赤カブ漬

 飛騨高山といえば飛騨の匠とか、古くから日本の小京都と呼ばれ、優れた木工技術や高い文化を誇っています。同じ山国ではあっても塩を入手しやすい条件が整っていたのでしょう。しかも都の文化の影響も強く受けていました。食文化が発達していた京都では、漬物文化も発達していました。
赤カブ漬は味だけではなく、美しい赤い色にも魅力があります。そうした味や色彩にも都の文化が受け継がれているのかもしれません。
高山名物の朝市では雪が降り積もった真冬でも早朝から何店もの店が並びます。その中で一番多いのが赤カブ漬を扱うお店です。赤カブの漬物は飛騨地方の人達の冬の保存食です。収穫時期は10月頃です。かつては家ごとに、その家に代々伝わる方法で赤カブを漬けるのが当たり前でした。昔から行われているもっとも一般的な方法は塩漬けです。最近では酢漬や味噌漬け、醤油漬けなどを作る家庭もあるということです。
漬け込んでから数日も経てば発酵をはじめますが、どのくらい経ったときが食べごろかは朝市で売っている人達の間でも答えが違っています。2~3カ月という人もいれば1年という人もいます。


朝市
高山市の名物、朝市は雪の日でも何軒かが店を出しています。近郊の農家などでつくられた赤カブの漬物も売られています。

漬け込まれた赤カブ
大量に漬け込まれた赤カブ。味の決め手となる上で大切なのが繁殖する乳酸菌の種類です。そのために重要なのが温度管理です。



味の違いは乳酸菌の違い
 赤カブ漬には甘味を感じるものから酸味の強いものまでいろいろあります。酸味の強い、いわゆる漬かり過ぎを好む人もいれば、浅漬かりを好む人もいます。同じ赤カブを使ってもこうした味の違いがでてきます。年によっても味に微妙な違いがあるといわれています。生の赤カブを切ってみると、赤いのは表面だけで中は白い色をしています。ところが赤カブ漬は中まで赤く染まっています。これは乳酸菌の酸によってカブの成分が赤くなるからです。雑菌が入ると、あまり赤くはなりません。
ところで乳酸菌といっても、何千種もいると言われています。どの乳酸菌が一番多くいるのかによって、味が変わってくるのです。漬かり過ぎた漬物の酸味が強くなるのは、単に乳酸菌の数が増えるということではなく、酸味を強くする乳酸菌が増えた結果です。最初に漬け込むときの塩の量、そして温度管理によって、それぞれの家庭の好みの味をつくりだしてくれる乳酸菌が変わってくるのです。その中でも特に重要となるのが温度管理です。
かつては多くの家が、土壁で囲まれた漬物部屋や土蔵の中に漬物を保管していました。そうした場所は温度が一定のためを管理しやすいからでした。

土蔵 樽
かつてはどの家でも樽を使って自家製の赤カブ漬を作っていました。漬物は樽ごと温度が安定している土蔵などに保管し、おいしい漬物になるようにしていました。



無限の可能性をもつ微生物
 漬物や調味料など、多くの食品に微生物の働きが関係しています。つまり、魚や野菜などの有機物を発酵させることで分解し、別の有機物にすることでおいしくしたり保存が利くようにします。腐敗も基本的には発酵と同じことです。一番大きな違いは人にとって有用かどうかということです。発酵も腐敗も有機物を分解する初期の段階です。分解がさらに進めば有機物は無機物となります。
微生物が汚れた水をきれいにするのは、汚れの原因である有機物を分解し、水や二酸化炭素、窒素ガスといった無機物にするからです。ただし、窒素は植物にとって重要な栄養素であるため、水中に窒素が増え過ぎると植物プランクトンの繁殖を促し、水の汚れの原因を作り出すことになってきます。そこで窒素を除去する浄化装置が開発され、微生物が大きな役割を果たしています。
食品製造から水処理技術まで幅広く活躍している微生物ですが、その種類は膨大で、何十万種とも何千万種、あるいはもっと多くの種類がいるともいわれています。しかも解明されていないことの方が多いのです。見方を変えれば、微生物は人や地球環境の未来にとって無限の可能性を秘めているともいえるのです。


メニュー1 2 3 4 5 6|次のページ