水の話
 
自然の森と人工の森

自然の森の移り変わり
 鬱蒼とした森の中は、どこか神秘的な雰囲気を漂わせています。1本1本の木々は、あたかも太古の昔からその場所に立っているように思われています。しかし、樹齢千年以上もの木は、屋久杉などごく一部にしかありません。どんなに大きな木であっても、せいぜい数百年というところでしょう。

 もちろん、何代にもわたり、世代交代を繰り返してきた木もありますが、何千年、何万年も、森は同じ姿をしているわけではありません。例えば山火事によって裸地になったとします。そこへは最初にススキなどの草が生えます。次にシラカバ、アカマツといった日光を好む「陽樹」といわれる木が進出します。陽樹が成長すると、森の中は日光がさえぎられ、陽樹の若木は成長しにくくなってしまいます。そこへ、シイ、ブナ、ミズナラ、シラビソといった比較的暗い条件の中でも発芽、成長できる「陰樹」が成長していきます。陰樹で占められた森は代々同じ種類の木で世代交代ができるため、森の木は他の種類と容易に入れ替わることがなくなり安定した状態となるのです。こうした森は「極相林」と呼ばれています。火山の噴火で裸地になった場所が極相林になるまでには、数百年の年月がかかります。森はこのように常に変化し続けているのです。

ただ、どんな森でもこうした極相林になるわけではありません。例えば岩だらけで痩せた土地のようなところでは、まばらにしか木は生えません。そのため陽樹林のままで、陰樹林にまで移行することができないのです。もちろんそうした林もその場所における「極相」といっていいでしょう。
森
一見、不規則に生えているように見える森の中の植物ですが、光を効率よく集められるように、規則性をもっています。木を下から見上げると葉同士が重ならないように並び、地面近くの植物は木の枝からこぼれ落ちる光や散乱光を利用しています。

谷川の水 樹木の豊富な場所にある谷川の水は、美しい流れを絶やすことはありません。

場所によって木の種類が違う日本の森
 ところで、森といってもいろいろなタイプがあります。日本の森を大きく分けると、1年中葉をつけたままの常緑広葉樹(照葉樹)林、秋から冬にかけて葉を落とす落葉広葉樹林、そして常緑針葉樹林の3つとなります。ただしカラマツのように、冬には葉を落とす針葉樹もあります。これらの森は一般には気温によって分布できる範囲が決まってきます。この中で一番暖かい地域が照葉樹林、次に落葉広葉樹林、そして針葉樹林の順となります。日本の中部地方では海岸に近いところに照葉樹林が生え、高度が増すにつれて落葉広葉樹林へと変化します。さらに山岳地帯へ入っていくと針葉樹林にとって代わられます。

一方、緯度の低い九州などではかなりの標高までが照葉樹で占められています。逆に緯度の高い東北や北海道では照葉樹が見られなくなっていきます。
植物分布図(資料:森林インストラクター入門)
植物分布図

スギやヒノキ
かつて日本の住宅が不足していた頃、将来の住宅需要の伸びに備え、多くのスギやヒノキが植えられました。
 気温は高さが100m高くなるにつれ、約0.6度下がります。高度差が500mであれば平地との温度差は約3度となります。水平的には、北へ100km進むと0.5度の温度低下となります。したがって高さによる温度差が3度ということは、北へむかって600km移動したのとほぼ同じ温度変化です。南北の距離に1,000kmの差があれば、高さにして約830m分の温度差(約5度)があるのと同じことになってきます。針葉樹は地球上の植物の中ではかなり古い歴史を持った植物です。それが寒い地域に多く分布しているというのは、後から進化した広葉樹によって、より不利な条件の土地に追いやられ、寒さや乾燥に強く痩せた土地でも耐えられる木となったのかも知れません。

 針葉樹の森として馴染みが深いのはスギやヒノキです。ただし、全くの自然のままというスギやヒノキの森はあまり多くはありません。しかも中部山岳地帯のような場所では、落葉広葉樹より高い地帯ではツガ、トウヒ、シラビソといった針葉樹はよく見かけますが、スギやヒノキはあまり見かけません。スギ、ヒノキの多くは、照葉樹や落葉広葉樹の森の領域に主として自生し、また植えられてきました。

スギはもともと純林は作らず落葉広葉樹などと共存していた木だとされています。静岡県の登呂遺跡でも木製の出土品の多くにスギを使った道具などがみられます。平成12年の4月に「日本の巨木100選」が選ばれました。国有林の木に限定されてはいますが、100本のうち27本までがスギで占められていました。しかも、そのほとんどは独立木です。おそらく広葉樹林の中にあって、伐採を免れた結果、巨木として残ったのでしょう。

日本三大美林の1つに数えられている木曽のヒノキ林は、花粉分析の結果から、おそらく1万年以上前から木曽の山に生えていたとされています。ヒノキが生えているのは主に斜面です。水のある谷は広葉樹が優勢となっています。木曽の山といえばヒノキ、サワラ、アスナロ(ヒバ・アスヒ)、ネズコ、コウヤマキ(マキ)の木曽五木が有名ですが、そのうちのサワラは沢筋に、陰樹の性格が強いアスナロはあまり場所を選ばず、コウヤマキは尾根筋などでよく見られます。ただ、ヒノキは斜面を、コウヤマキは尾根を好むということではありません。木の生育にとってより条件のいい場所を広葉樹に占領されて追い出された結果といえるのです。

森
針葉樹を伐採したあとに再び苗木を植え、それが商品としての価値をもつまで育ててきましたが、最近は自然に生えた木をそのままにして、森の多様性を大事にするところが増えています。
木曽五木の葉と製材した木肌
木曽五木の葉と製材した木肌
ヒノキもサワラもよく似た葉をしていますが、葉の裏側にある白い気孔の並び方がヒノキはX型、サワラはY型をしています。


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