水の話
メニュー1 2 3 4 5 6次のページ
 
ため池の生物多様性

ため池のもっている生物多様性
 ため池は河川水を利用しにくい丘陵地や雨の少ない地域でたくさん作られてきました。特に多いとされているのが香川県、兵庫県、愛知県などです。
ため池の構造は地域によって特色があります。香川県などでは緩やかな斜面や平らな場所を掘り、周囲を堤防で囲んだ皿池と呼ばれる池がたくさん見られます。一方、愛知県の丘陵部では里山から流れ出す川を塞き止めて作られた谷池と呼ばれる池がたくさん見られます。
ため池本来の役割は水田を中心とした農業用水です。そのため、水田へ水を引く前は水をいっぱい溜め、田植え時期になると放流するため水位が下がります。稲刈りが終わると堤防の補修や池の魚を食用として捕まえるために水を抜いて池干しをします。池の底に溜まった土は肥料として浚います。このようにため池は1年間で水位が大きく変動するばかりか、池底や堤防の土が撹拌されます。そのため、生物にとっては定着し難い環境のように思われますが、むしろ生物多様性には大きな役割を担ってきました。
ため池は川とは違い、当然流れはほとんどありません。大水のときなどは小さな魚の避難場所になりました。また谷池の場合、堰以外は自然の護岸でした。水辺にはアシなどが生え、カモ類をはじめとした鳥にとっては猛禽類から身を守る場所にもなりました。
アシは水を浄化する植物としても知られていますが、繁茂したまま放置するとやがて枯れて、逆に水質を悪化させる原因にも繋がります。ところが葦簾や茅葺き屋根などの材料として利用するため、人の手によって刈り取られます。こうしてため池の環境は農業をはじめとした人々の暮らしによって変動します。
ところがこうした環境変化のサイクルにあった生き物たちがいます。カスミサンショウウオやカエルなどは産卵期とため池の水を張った時期とが重なります。ため池の水深は浅いところから深いところまであるため、水草も水底で生活するクロモやマツモから水底に根を張り葉や茎が水上に伸びるコウホネやガマ、あるいは水底に根を張り水面に葉を浮かべるヒシやジュンサイなどさまざまな形態の植物があります。

シラタマホシクサ
東海地方の里山やその周辺の湿地に分布するシラタマホシクサ。名前の通り星屑を散りばめたようにして花を咲かせますが、絶滅が危惧されています。

ヒシ
ヒシはポピュラーな水草で実は食用になります。全国のため池に生えていましたが、最近はあまり見かけなくなっています。


日本産であっても外来生物
 動植物の姿が見えなかった池に水草が繁茂し、魚がすむようになったとしても、それらが外来種であったとすれば、生物多様性が守られていることにはなりません。
ホテイアオイは繁殖力が強く、水面を覆い尽くしてしまうことがあります。その結果水の中へ日の光が届かなくなり、水生植物が光合成を行えなくなり、時には溶存酸素の低下ももたらします。さらに冬になって枯れたホテイアオイを放置しておくと腐蝕して水の汚れの原因にもなりかねません。
他の外来の水生植物も在来種を駆逐してしまい、むしろ生物多様性を損なわせることになってしまいます。
オオクチバスやブルーギルも、在来の小魚や水生昆虫などを捕食するため、絶滅の方向へ向かう在来種もいます。タイリクバラタナゴは在来のニッポンバラタナゴと交雑するため、遺伝子の撹乱を起こしてしまいます。あるいは在来種の産卵場所である貝類に先に産卵してしまうため、在来種の繁殖を妨げていることもあるといわれています。
外来生物というと、一般には国外から人為的に持ち込まれた生物だと思われています。しかし生物には国境も国籍もありません。本来の生息環境から持ち出され、別の地域へ移入されたものはすべて外来生物となるのです。
川をきれいにする一環としてコイが放流されることがあります。もともとその川にいたコイが放流されるということはまずありません。つまり、放流されたコイはその川にとっては外来生物になるのです。メダカの場合も同じです。メダカは生息している地域によって遺伝子の特質が異なります。極端にいえば川ごとに異なるメダカがすんでいるともいわれています。

カワウ
かつては水辺環境の悪化などによって絶滅が危惧されていたカワウですが、保護策などのおかげで数が大幅に増え、逆に糞害が問題となっている地域もあります。


コイ
河川浄化の象徴として子どもたちによるコイの放流が行われることがありますが、みだりに放流すると生態系の破壊に繋がります。


ため池
昔からあるため池は護岸がコンクリートなどで補強されていないため、水辺にはアシなどが生え、水鳥や小魚がすみやすい環境を提供しています。


メニュー1 2 3 4 5 6次のページ