水の話
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清流ルネッサンスで清流を取り戻す試み

水環境改善に不可欠な住民参加
 国や都県、区、市町によって構成されている綾瀬川清流ルネッサンスII地域協議会は水環境改善のさまざまな施策を行なっています。綾瀬川の汚れの原因の一つが生活排水です。下水道の整備や合併浄化槽の推進、あるいは川底に溜った泥の浚渫(しゅんせつ)、きれいな水の導水といったことは国や自治体でなければ実施できません。その一方で川にゴミを捨てないといったことは住民の心掛け次第です。
また、下水道の整備や合併浄化槽の整備が進んだとしても、例えば使用済の天ぷら油を台所から大量に流してしまうと、浄化設備が十分な機能を発揮できなくなってしまいます。川を汚している一番の原因が家庭排水によるものであるということは、台所や洗面所の使い方に気を配るだけでも川の汚れを減らすことができるのです。こうしたことは住民一人ひとりが取り組まなければ実現できません。油で汚れた食器などは紙できれいに拭き取ってから洗うようにするだけでも、川の汚れに与える負荷はかなりの削減が期待できます。
綾瀬川の汚れの原因の一つに流入河川の汚れがあります。そこで、平成18年度から、埼玉県と地元の市町が中心となり、住民、市民団体、企業と連携して流域総ぐるみで綾瀬川をきれいにする「綾瀬川ワースト1とことん脱却大作戦」を開始しました。目標は、綾瀬川の水質を改善することに加えて、地域の人々の憩いの場となる、豊かな川として甦らせることです。取り組みの一環として、綾瀬川へ流入する河川の横にゼオライトという鉱物をセラミックス化したものを詰めた水路を設け、そこへ汚れた水を引き込み、浄化してから元の川へ放流する実験も行なわれています。ゼオライトをセラミックス化した担体は水の汚れの一つである窒素を吸着する能力を持っています。さらに、この水路にはミクリという水生植物が植えられています。担体に吸着した窒素は微生物によって酸化(浄化)されますが、このとき、微生物は酸素を必要とします。ミクリを植えたのは水中へ酸素を供給するなど、微生物の働く環境を整えてくれると同時に、こうした簡単な装置でも水を浄化できるということを住民へ啓発するためです。実際、この装置は綾瀬川観察会や地元の小学校の環境教育などで見学会が行われ、生活排水対策の重要性を考えるための格好の教材となっています。

合流地点
綾瀬川(写真右手)もいくつかの支流を集め、徐々に水量を増やしていきます。左奥から流れてきているのは原市沼川。舟運が盛んな頃はこの辺りにも河岸がありました。

綾瀬川 ミクリを植えた水路
ミクリを植えた水路 綾瀬川の汚れの原因の一つとなっている流入河川の水を、ミクリを植えた水路に流して浄化する試みも行なわれています。水路にメダカ、コイ、フナ、タモロコ、モツゴといった魚が紛れ込むことがあります。(写真提供:埼玉県環境科学国際センター)


川を中心にした生態系の復活
 日本一汚れた川というのは地域住民にとっては不名誉なことです。しかしそのことがかえって川へ目を向けさせることにもつながりました。例えば「清流ルネッサンス21」を実施する時、行政から意見を求められたことがきっかけで作られた「綾瀬川を愛する会」もそうした住民団体の一つです。下流部分は綾瀬川改修工事によって護岸がコンクリートで固められていました。意見を求められた住民は、中州や護岸に残る小さな林などを残してほしいと行政に要望しました。
さらに行政に対して要望するだけではなく、河畔のゴミ拾いや不法投棄の監視など住民としてできることを行うことにしました。最初の頃はゴミ拾いに参加する人数は10数名だけでしたが活動を続けていくうちに参加者が増え、今では100名以上となっています。ゴミ拾いは河畔沿いの約5kmを対象に毎月実施しています。
綾瀬川を日本一水質のきれいな川にすることが会員たちにとっての夢ですが、たやすく実現できることではありません。しかし日本で一番ゴミのない川にすることは可能です。歩いてみると、川岸はもちろん堤防の上にもゴミは全く見当たりません。爽やかで気持ちのいい場所となっています。散歩を楽しむ人も年々増えています。
ゴミ拾いの次に取り組んだのが河畔林の復活です。美しい川を取り戻すことは、本来の自然の状態に近い川にする事です。川は単なる水の通り道ではありません。魚が泳ぎ、水鳥が戯れ、植物が育ち、人々が憩える場所であるはずです。河畔林は水面に日陰を作り、木から落ちた虫は魚の餌になるなど「魚付き林」としての役割を果たす他、河川への土砂の流入を防ぐといった役割を持っています。もちろん、森そのものがさまざまな生き物の成育場所となります。近年は森の中でカブトムシの姿も見られるようになっています。
その一方で洪水時には河畔林の一部は水没し、流木となって下流に被害を与える可能性もあります。そのため河川法では河原や土手の内側に木を植えることに対し厳しく制限をしています。そうした中で行政も住民の活動に協力し、川幅をはじめ流路部分の構造を調整し、河畔林を復元させたのです。これこそまさに「里川」と言うべきものです。美しい川を取り戻すことは、単に水質を改善させるだけではなく、川を中心とした生態系を復活させることでもあるのです。


ゴミ拾いや水質調査
綾瀬川をきれいな川にしようと、中学生たちも参加してゴミ拾いや水質調査が行なわれています。(写真提供:綾瀬川を愛する会)


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