水の話
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多様な生物がすめる環境という幸せを運ぶ鳥

コウノトリ育む農法
 稲作は河口付近や谷間などの湿地から始まったとされています。やがて水田がつくられるようになり、数千年に渡り多様な生物を育んできました。ところが明治時代になると、稲の成長に合わせて水の量を調整でき、質のよい米がたくさん収穫できる乾田化が進みました。特に第二次世界大戦後は多くの田んぼが乾田化されました。
その結果、冬場の田んぼは水がないのが当たり前になり湿地の生きものたちは生活の場を奪われていきました。乾田化はコウノトリにとっても、餌場の減少を意味します。そこで冬期湛水や通常は田植の1週間前から水を張るのを1カ月前から水を張る早期湛水を実施することになりました。
稲がある程度生長をした段階で田んぼの水をすべて抜く中干しが行われます。中干しをすることで土中に酸素が供給され、丈夫な稲が育つのです。ところが中干しをする時期は、ちょうどオタマジャクシがカエルへと変態していく時期と重なります。足が生えていない段階で中干しをおこなうと、オタマジャクシは行き場を失い、田んぼの中で干上がってしまいます。そこでオタマジャクシがカエルに育つ時期まで中干しを延期するなどの工夫をおこなっています。しかもカエルは稲にとって害虫となるカメムシを食べてくれます。こうしてコウノトリの餌となるドジョウ、オタマジャクシ、カエルなども増えることになります。
こうしたやり方は、従来の米づくりに比べ田んぼの水管理を工夫し、たくさんの生きものを育む「コウノトリ育む農法」と呼ばれています。田んぼの畔もある程度草が残されているところがあります。完全に草を刈り取らないのは、昆虫のすみかとするためです。バッタなどの昆虫もコウノトリの餌になるのです。

田んぼの畔
一般に田んぼの畔の草はきれいに刈り取り、さらに土を被せるなどして草が生えないようにします。しかしそれでは草むらの虫たちが生きられません。そこで畔の草を完全に刈り取らずに残しておく農家の方もいます。

カエル
普通は田植前に田んぼの水抜きをする中干がおこなわれますが、そうするとオタマジャクシがカエルに変態することができなくなります。



生態系の宝庫
 豊岡市には円山川という一級河川が南北を貫いて流れています。河口から市街地までの約16kmは河床勾配が1万分の1という日本の河川の中では極めて勾配が緩い川です。
円山川沿いは穀倉地帯として田んぼが広がっています。しかし海抜が0m以下のところが多く、氾濫被害をたびたび受けてきました。季節によっては塩水が逆流したり、梅雨時や台風シーズンには溢れた川の水によって湖のようになることもありました。田んぼの間には何本もの水路が張り巡らされていました。
ただ淡水と海水が入り交じることで、多くの種類の魚が獲れ、川や水路ではシジミやハマグリ、シマダイ、ハゼ、ボラ、ウグイ、ナマズ、コイなどもたくさんいました。田んぼにはたくさんのドジョウもいました。またヨシやガマ、マコモなどが繁りヒシもたくさん生えていました。農業を営む人にとっては大変な重労働を強いられる場所でしたが、生態系の宝庫ともいえるところでした。
円山川周辺の水田にはかつてコウノトリが餌を求めて盛んに訪れていましたが水害の防止や農業生産の向上のため川に土手を築いたり、排水設備を整備したり、さらに乾田化のための客土工事がおこなわれました。こうしたこともコウノトリが姿を消していった理由です。
水害のない、安定した米づくりをおこなえるような土地改良事業は人々の暮らしを向上させましたが、その一方で、その土地を生活の場としていた多様な生物にとってはすみにくい場所になっていったのです。しかしコウノトリがいた時代には、豊かな自然があったのも事実です。

円山川
田んぼのすぐ向こうを円山川が流れています。ここから河口までの距離はそれほどありませんが、上流の豊岡市市街地までの十数kmまでの河川勾配は1万分の1しかありません。


ドジョウすくいで餌を捕獲
 コウノトリの好物はドジョウです。日本には約10種類のドジョウの仲間がいます。渓流にすむものもいますが、多くは田んぼや湿地のような止水域にすんでいます。田んぼが乾田化されているため、冬場になるとドジョウは田んぼの近くの水路や細流などで暮らします。水温が低くなると底の泥の中などへ潜り冬眠をすることもあります。
田んぼで代かきがおこなわれると周囲の用水路などにいるドジョウが水田へ遡上して産卵をおこない、落水のときに、水と一緒に水路へ流されます。エラ呼吸の他に腸での空気呼吸ができるため、水中の酸素が不足したときなどは水面まで上がり、直接空気を吸い込みます。そのため、水の汚れた場所でも生きることができます。
ドジョウは危険を感じると、泥の中に潜ります。しかも濁った水の中でも生きられます。そのため、コウノトリにとっては必ずしも捕らえやすい魚とはいえないようです。そこで長い嘴を泥の中に入れ、首を左右に降りながら探します。

ドジョウ
魚道
水田と水路の間には魚道が設けられているので、水を張った田んぼへドジョウは容易にいくことができます。



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