水の話
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保存してうま味を引き出す塩と微生物
春になると冬枯れていた野原や畑に少しずつ緑が戻ってきます。旬の野菜もたくさん出回りはじめます。いまでこそ年間を通して新鮮な野菜を手に入れることができますが、温室栽培がなく、流通も未発達の時代には、冬の食料を保存するためいろいろな方法が考えられました。

日本で唯一の漬物神社

 日本には八百万(やおよろず)の神々がいるとされ、全国各地の神社には様々な神様が祀られています。中にはちょっと変わった神様もいます。愛知県あま市にある萱津神社には日本で唯一の漬物の神様が祀られています。
言い伝えによると、伊勢湾が萱津神社の辺りまで入り込んでいたはるか昔のころ、神社の近くでは野菜だけでなく塩もつくられていました。村人たちはとれた塩や野菜を神社に奉納していました。ところがいつもたくさんの野菜が供えられていたので、余って腐らせていました。これではもったいないということで、塩と野菜を一緒に瓶の中に入れておいたところ、風味豊なものになったということです。そして日本武尊が東征のためにこの地を訪れたとき、村人の献上した塩に漬けた野菜を食べてたいそう喜んだとされています。
境内には茅葺き屋根の「香の物殿」という漬物のための社があり、毎年8月に「香の物祭」が行なわれています。祭では奉納されたウリ、ナス、ダイコンなどの野菜が並べられ、神事が行われたあとに香の物殿の中に漬け込まれます。野菜は2年ほど漬け込み、祭の時に取り出され、熱田神宮の例祭に奉献されたり、参拝者に振る舞われたりします。


萱津神社
日本で唯一とされる漬物を祀った、愛知県あま市にある萱津神社の香の物殿。



少なかった日本の栽培野菜

 現在は豊富な食材が容易に入手できる時代です。ところが日本原産の野菜はウド、ワサビ、セリ、ワラビ、ジュンサイなど10種類前後しかないといわれています。ダイコンやカブのように日本で古くから栽培されてきた野菜もありますが、もともとは大陸から渡来したものです。
七草粥に使われる春の七草はセリ、ナズナ(ペンペングサ)、ゴギョウ(ハハコグサ)、ハコベラ(ハコベ)、ホトケノザ(コオニタビラコ)、スズナ(カブ)、スズシロ(ダイコン)です。このうち、現在も野菜として栽培されているのはスズナとスズシロくらいです。セリも栽培はされてはいますが、野菜というよりは山菜として扱われる場合が多いようです。ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザに至っては、いまでは雑草というイメージしかありません。
平安時代頃までに日本へ伝えられた野菜はサトイモ、ネギ、ニンニク、ナス、トウガン、ダイズなど、江戸時代頃までに伝わったものはニンジン、ゴボウ、トウガラシ、ホウレンソウ、カボチャなどがあります。そして明治になってから多くの野菜が伝来しました。しかも同じ野菜であっても西洋カボチャのように、それまで日本で栽培されていたものとは異なる品種の野菜もたくさん栽培されるようになりました。


カブ
カブは日本で古くから栽培されてきた野菜の一つです。

スズナ(カブ)とスズシロ(ダイコン)
春の七草のうち、現在もよく食べられているのがスズナ(カブ)とスズシロ(ダイコン)です。



塩漬けは食品を保存する基本

 栽培野菜の種類が少ない時代は野草も貴重な食料でした。しかも、冬にはそうした野草も手に入らなくなります。そこで考えられたのが食品の保存です。
食品を保存する基本は食品に含まれている水分を取り除き、腐敗を防止することで、魚の干物や薫製といった方法や漬物にする方法があります。漬物の中でも最も古くから行なわれたと考えられるのが塩漬けです。塩漬けといっても、最初は海水に漬けては干すといったことを繰り返すだけであったと考えられています。
万葉集の中に藻塩(もじお)という言葉が詠み込まれた歌があります。この当時は海藻のホンダワラを海水に漬けては干すことを繰り返して濃度の高い海水をつくり、その中に塩の付いたホンダワラを焼いた灰をまぜ、上澄み液を煮詰めて塩がつくられていました。
野菜、魚、肉などを塩漬けにした食品は醤(ひしお)と呼ばれ、やがて穀類は穀醤(こくひしお)、魚や肉類は肉醤(にくひしお)、野菜類は草醤(くさひしお)として区別されるようになりました。穀醤は現在の醤油で、肉醤は塩辛です。なお東南アジアでは魚類からつくられた魚醤が日本の醤油のように使われています。そして草醤が現在の漬物になりました。
漬物は日本独特の食品のように思われますが、世界には多くの漬物があります。よく知られているものとしては韓国のキムチ、中国のザーツァイ、ヨーロッパではピクルス、アンチョビーなどがあります。
これらの漬物の多くは発酵を伴いますが、発酵を伴わないものもあり、日本の漬物にも、一夜漬けのような発酵を伴わないものがあります。


塩漬け
野菜を塩に漬けてしばらくすると、浸透圧によってたくさんの細胞液が出てきます。

大量の塩
塩漬けにする時の塩の量は塩を振りかける程度ではなく、塩の中に埋もれるほど大量に使われる場合もあります。



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