水の話
 
水中で繰り広げられる生き物たちの闘い
都会の中を流れる川も、20~30年前に比べると、ずいぶんときれいになったような気がします。
生き物の姿も増えたように感じられます。岸辺の近くには小さな魚たちが群れています。
水鳥の姿も見られます。エサとなる生物が増えているのでしょう。でも、昔は、もっと多くの種類の魚を目にすることができたということです。
水の中で、なにか大きな変化が起きているのでしょうか。 

人間にも危害を与えかねないカメ
 子どもたちに人気のある生物の一つにカメがいます。ところが、カメも小さいうちは水槽などで飼うことができますが、成長するにつれて世話が大変になってきます。しかも寿命が長いものですから、やがて持て余されて池や川へ放されることがあります。野外で見られるカメの中で最も多いのがミシシッピアカミミガメです。このカメは、小さいうちは甲羅全体がきれいな緑色をしているため、ミドリガメの名前で売られています。しかし成長するにつれて緑色は失われてくすんだ色になり、しかも攻撃的になってきます。大きいものでは甲羅の長さが28センチ、体重2.5キログラムにまで成長します。雑食性で、魚、貝、水生昆虫なども捕食します。日本在来のニホンイシガメやクサガメよりも採食行動が早く産卵数も多いため、同じ水系での共存が難しいとする報告も出始めています。
ミドリガメ
子どものときにはかわいらしいペットとして人気のミドリガメも大人になると凶暴になります。(写真提供:中井克樹氏)

危険なカメにご注意!
ペットとして飼われていた凶暴なカミツキガメが成長して手に負えなくなると、池や川に放流され、危険な水辺となっている所もあります。

メダカやコイを放流しても戻らない自然
 かつてメダカは池や田んぼ、小川など身近な水辺にいる小魚の代表でした。全国でメダカの呼び名は1,000種類を超えるといわれることからも、この魚が日本各地で最もありふれた親しみ深い魚であったことが分かります。メダカがいなくなった最大の理由は、田んぼや小川などの棲息環境そのものの変化だと考えられています。最近になって、そうした変化のありかたを見直し、自然環境の回復させる試みも増えてきました。そして、その象徴として、メダカを池や小川に放流することがよくあります。しかし、日本各地にすんでいるメダカは、長い歴史の中で棲息する地域によって異なった遺伝的特徴を持つように進化していることが分かっています。そのため、水系を越えてメダカを移動させると、地域の遺伝的特徴が失われてしまうこともあります。ある地域で何年も姿を見せなかったメダカが戻ってきたというので調べたところ、全く別の水系にいるはずのメダカであったという話はよく聞かれます。
コイも川がきれいになった象徴として、放流される魚の代表となっています。ところが、アメリカやオーストラリアなど、もともとコイのような魚が生息していなかった国々では、コイは侵略的外来魚の代表として扱われています。コイの好物はタニシなどの巻貝で、大きな口で水底の泥を吸い込みながらエサを探します。その結果、水を濁し、水草を引き抜いてしまいます。国内でも、ホタルを保護している水域に放すと、幼虫の餌に必要なカワニナを激減させてしまいかねません。
メダカやコイであっても、別の水系のものを移動させたり、もともといなかったところに導入したりすることは、本来の生態系を壊す恐れがあることが指摘されています。

自然を回復させたはずが自然の破壊につながること
ビオトープ 最近は人工的に自然環境を模して生物の住み場所をつくる「ビオトープ」活動が盛んです。ところが、ビオトープとしてつくられた水辺にキショウブやパピルス、ケナフといった植物が植えられ、池の中にはオオフサモ、ホテイアオイが繁り、カダヤシやグッピーが泳いでいるという光景に出くわすことがあります。いずれも外国起源の外来生物です。これらの生物にはたしかに目先の効用はありますが、管理する責任を考えずに安易に導入することは、新たな外来生物問題を引き起こしかねません。
カダヤシやグッピーはしばしばメダカと間違われる魚です。カダヤシは「蚊絶やし」の名前が表すように、ボウフラ退治を目的にして1916年に日本へ移入されました。グッピーは観賞魚として輸入され、1950年代半ばから日本各地の温泉地で野生化し始めました。カダヤシもグッピーも卵胎生のため、水草のないコンクリートの水路でも繁殖が可能です。また、汚れた水にも強く、家庭排水に含まれる有機物やボウフラをエサにすることができ、市街地の溝川(どぶがわ)にも生息できます。そのため、ボウフラ退治にはある程度役立つと思われますが、メダカの稚魚が食べられたり、餌をめぐって競合したりし、その後メダカが数を減らしています。
また、増えすぎた水草を除去する目的で放流されている魚にソウギョがいます。漢字で草魚と書くように、1日で自分の体重と同じ量かそれ以上の水草を食べます。そのため、放流された水域の絶滅の恐れのある水草も含めて食べ尽くしてしまうことがあります。水中から水草が消滅することは、魚の産卵場所や小動物の生息場所の消失につながり、水草が吸収していたはずの栄養分が植物プランクトンの増殖を招いて水質の悪化など、さまざまな面への影響を与えます。

アメリカザリガニ グッピー タイリクバラタナゴ
ビオトープは、本来の自然の生態系を復活させようとするものです。ところが、外国起源の外来生物であるアメリカザリガニ(左)やグッピー(中)やタイリクバラタナゴ(右)などが持込まれている場合がみられます。アメリカザリガニは、ウシガエルのエサとして移入されたもので田や谷地のような湿地環境を好みます。こうした場所は、もともと豊富な種類の水草、メダカ、ゲンゴロウ、ヤゴ、タガメ、カエルなどの多様な生物が生息していました。アメリカザリガニは雑食性で、水草や水生の小動物を捕食して大量に増えて生態系のバランスを崩すことがあり、希少種の保全のうえでも問題視している水域もあります。


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