水の話
 
季節を失くした野菜や果物
一面茶色をした畑ですが、やがて青々とした作物が育つのを待ちのぞむ春先。
そんな風景の中に植物園の温室を思わせる建物がありました。
中では周りの畑よりひと足早く収穫が行われています。
温室栽培(ハウス栽培)によって、冬場でも新鮮な青い野菜がたくさん食べられるようになりました。

温度管理で変わる植物の開花時期
 どこの植物園へ出かけても、温室がひとつの目玉となっています。温室の中には、熱帯の珍しい植物や果物が実っています。当然、中は蒸さるような暑気と湿度で満たされています。温室の役目は、植物が育つのに適した環境を作り出すことです。そうすることによって、植物が育つ本来の時期をずらして育てることも可能になってきます。
野菜や果物のハウス栽培も、温度の調節によって出荷の時期を調整し、商品としての価値を高めるために利用されています。発芽や開花時期をずらすには、必ずしも温度の調節だけではなく、日照時間も関係します。愛知県渥美半島の電照菊栽培は日没後もハウスの中を電灯で明るく照らし、開花時期を変えています。菊は日照時間が短くなると開花します。その性質を利用して、日没後もハウスの中を電灯の明りで照らし、正月などの出荷時期に開花するよう、日照時間で調節しているのです。また、最近は山菜の王者といわれるタラノメの人工栽培も行われていますが、これは短く切ったタラノキを冷蔵庫の中に入れて冬のような状態を作り出してからハウスなどに移し替え、人工的に発芽させるのです。
 
愛知県渥美半島の電照菊栽培。菊は日照時間が短くなると開花します。夏の終り頃から日没後も電灯で照らし、正月に出荷できるようにします。(写真提供:愛知県赤羽根町)

ストレスを与えるとおいしくなる作物愛知県渥美半島の電照菊栽培
 人為的に植物の発芽や開花時期を変えることによって、野菜や果物の味が薄くなったり、まずくなったといわれます。一番の理由は、本来の生育に最も適した温度とは多少異なる環境で育てているためです。つまり、開花時期を変えても、温度など他の条件を全く同じにすれば、おいしいものを作ることができるのです。例えばトマトは、本来は真夏の野菜です。それを冬に栽培するとき、昼夜の温度などを真夏と全く同じ条件にしようとすると、暖房費や設備代に大変なコストがかかってしまい、採算が取れません。また、ハウスで栽培するということは、作物によっては成長を早め、年に何回も収穫することが可能となってきます。植物は早く順調に成長させると成分が薄くなると一般にいわれています。そのため短期間で収穫しようとすると、どうしても味も薄くなってしまうのです。
日照りの年には果物が甘くなるといわれています。すべての植物に当てはまるわけではないようですが、日がよく当たれば植物の光合成は活発になり、糖が増加します。しかも水不足のため、懸命に水を吸収しようとします。水は浸透圧によって根から吸収されます。一方、糖は水に溶けやすく、浸透圧を高めますが、デンプンは浸透圧をあまり高めません。そこで浸透圧を高めようとデンプンを糖に分解させます。こうして甘みが増していくのです。
また、植物にとって窒素は大切な肥料です。窒素が体内の糖分の炭素と結び付いてアミノ酸やタンパク質を作るからです。窒素をたくさん与えることによって作物の成長はよくなりますが、逆に窒素肥料を減らしてやるとアミノ酸やタンパク質になるはずであった糖分の消費が抑えられるため、結果として甘みが増す作物もあるようです。
こうして水分や肥料を少なくするなど、植物にストレスを与えることによって、おいしい作物を作ることもできるのですが、実が小さくなったり収穫量が減少することもあり、農業経営が成り立たなくなる場合もでてきます。

サイネリアの花と温風機
サイネリアの花と温風機。温室内は冬でも暖かですが、植物によってはさらに人工的に温度を上げて、成長を促します。(愛知県飛島村)


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